SUTENAI CIRCLE

Vol.04 INTERVIEW

誰かのためではなく、誰にとっても良いものを生み出す。コクヨのインクルーシブデザインの現在地

掲載日 2023.12.26

画像:誰かのためではなく、誰にとっても良いものを生み出す。コクヨのインクルーシブデザインの現在地

Interviewee

  • 藤木 武史

    コクヨ株式会社
    GST事業本部
    ものづくり第2本部企画開発部

  • 林 友彦

    コクヨ株式会社
    ワークプレイス事業本部
    ものづくり本部シーティング開発部

  • 本澤 真悠子

    株式会社カウネット
    MD本部 商品企画部

コクヨグループでは、各事業会社のメンバーで構成するタスクフォースでHOWS DESIGNに取り組んでいます。今回はそれぞれ異なる3事業から企画・開発をされている皆さんに集まっていただき、それぞれの現在地についてお話を聞きました。

皆さんの普段の業務内容を簡単にお願いします。

林:ワークプレイス事業本部は、オフィス家具の製造や販売を中心に行っていますが、それだけに限らずオフィス空間のデザイン構築も行っていることが特徴です。モノのみならず、働く空間や働き方のデザインやコンサルティングも担います。

藤木:グローバルステーショナリー事業本部では、主に文房具や雑貨などのプロダクト開発を行っています。私自身は元々ワークプレイス事業本部の前身のファニチャー部門にいたのですが、6年前から今の事業部で働いており、KOKUYO MEなどのブランド・シリーズステーショナリーの企画にも携わっています。

本澤:カウネットは主にBtoBの通販、ECビジネスを展開しています。文具・家具・生活用品など幅広い商品を扱っていますが、私は特に「カウコレ」というPBの商品企画を中心に担当しています。

皆さんは現在コクヨの中でインクルーシブデザインに取り組む中心メンバーとなっていると思いますが、インクルーシブデザインというものを知ったきっかけは何でしたか?

藤木:2002年から、現在の国際ユニヴァーサルデザイン協議会組成のきっかけになった会議体にコクヨの代表として参加していました。その頃は「ユニバーサルデザイン」という言葉が一般的だったのですが、実はその中でインクルーシブデザインについても話されることがあり、その頃から接点は持っていたなと思います。印象としては、ここ数年で明確に「ユニバーサルデザイン」「インクルーシブデザイン」が使い分けられ始めたという感じで、当時はまだあまり違いが浸透していなかったんじゃないかと思っています。どちらの言葉も、当時は専門的な会議体で使われることがほとんどで、こんなに一般化してたくさんの方が語る言葉にはなっていなかったような印象です。

本澤:私は本当に最近で、去年コクヨがインクルーシブデザインに取り組んでいくという方針が共有された時も正直自分ごとになっていない状態でした。でも、2022年の年末に会社から促されてダイアログ・イン・ザ・ダーク(※)に参加した際に、目の見えないアテンダーの方に暗闇の中を案内していただいて、「当たり前って何なんだろう?」と強く考えたことが大きなきっかけになっています。その日の帰り道から、白杖の方や盲導犬を連れた方にもよく気がつくようになり、これまで見えていなかった世界があるんだということにも気づかされました。そうした体験を経て、2023年から事業部横断でインクルーシブデザインを推進していくタスクフォースのチームにも参加しています。

林:言葉としては知っていましたが、どういうことなのか実際に触れて知ったという意味では、10年ほど前に藤木さんが開催されていた新製品プロジェクトに開発メンバーとして参加したことが最初だった気がします。公共施設用の家具を開発するプロジェクトだったのですが、ワークショップなども開催されていて、最初は「なんだか大変そうだなぁ、難しそうだなぁ」という印象だったのを覚えています。

※一般社団法人ダイアローグ・ジャパン・ソサエティが運営する、純度100%の暗闇の中で視覚以外の感覚を研ぎ澄まし、互いに心をひらく体験を通して「多様性の本質」を理解するためのエンターテイメント・プログラム。

今それぞれの事業部で推進していく立場になって感じているインクルーシブデザインの良さや可能性というのはどのような点でしょうか。

林:デザイナーたちにとって、インクルーシブデザインはレベルアップに繋がる非常に良い挑戦だと感じます。リードユーザーとの対話を経ることで、自分で考えるだけでは気づかない視点や、思いつかないようなアイデアが必ず生まれますよね。人によってはそれがクリエイティビティを発揮する制限になるのではと感じてしまうようなんですが、そんなことは全くなく、私はむしろ逆なんじゃないかと思っています。社員の多くがインクルーシブデザインを体験し、HOWS DESIGNのプロセスを経て生まれる商品が増えれば増えるほど、コクヨのデザイナーは本質的なクリエイティビティを発揮してレベルアップできる。個人的には「こんなに面白いんだから、皆もっとやったらいいのに」と素直に思っています。

本澤:このプロセスでの企画がスタートした時はステップの追加や慣れないワークショップに不安の声も多かったのですが、実際に商品を生み出すことができ、社内外から評価いただけたことで、チームの皆から「やりがいが増した」との声が出てきました。HOWS DESIGNのプロセスを経ることで、元々カウネットとして掲げていた「お客様のお困りごとを解決する」という原点に純度高く立ち返ることができたんです。今は、どの商品に対しても「配慮されているか」という視点での問いが入ったり、チーム全体でインクルーシブデザインに対する感度が高まっている実感があります。

また、私たちは製造ラインを持っていないのでメーカーさんと協働する必要があるのですが、そうしたパートナーの皆さんをカウネットのショールームにお招きして、HOWS DESIGNについて伝え、その上でのご相談をするようになりました。そうすると、ただ設計図を変更するだけではなく意図を理解して本質的な改善案を一緒に考えていただけたり、「こういうやり方もあるかもしれません」とアイディアをいただいたりと、より良い関係性が築けています。

藤木:コクヨとして定めている目標数値、新製品の20%をインクルーシブデザインのプロダクトにする、2030年には50%を目指すといったものがありますが、正直に言うととても高い目標だと思います。でも、だからこそ社員としてはスピード感を持って、勢いをつけて挑むことができる。これはある種の可能性なんじゃないかと考えています。本澤さんのお話のように、体感としては全ての商品開発において意識を持って、100%達成するぞという気持ちで進めていく必要がありますね。

自分たちにとって高い目標に向かい始めた今、苦労している点や今後挑戦すべき課題だと感じることはありますか?

本澤:今後商品を発信していくにあたって、「特定の誰か専用のもの」だと誤解されてしまわない工夫は必要だと思っています。わかりやすくHOWS DESIGNプロセスを経たインクルーシブプロダクトだと伝えることが必要な場合ももちろんあるとは思いますが、インクルーシブデザインというものは「誰かのためのもの」を作るプロセスではなく、「皆にとってより良いもの」を生み出せるプロセスであると感じます。だからこそ、敢えてその部分は強調せず、普段からカウネットの商品を使っていた方が「あれ、なんか変わった?」と感じて、よく見てみるとインクルーシブデザインで生まれた商品だったと気づくといった流れも作ろうとしています。

藤木:過去に身体障がいのある方と一緒に開発をした中で、手の麻痺がある方でも使いやすいハサミを考えようとしていたものの、実際には「利き手」による制限を取り払うことで解決できるんじゃないかという可能性が見えてきたことがありました。結果的に障がいの有無を問わず、より多くの方にとっての「使いやすさ」に昇華できたのですが、インクルーシブデザインはそうした過程そのものとしての価値が特徴的ですよね。

林:私もそういう開発ができるといいなぁと思いつつ、まだまだ全員に対してインクルーシブデザインの可能性や良さといった部分を伝えきれておらず、壁にぶつかっています。インクルーシブデザインというものの可能性は一度体験して貰えば絶対にわかると思っているので、社内でも体験会を頻繁に開催したり、とにかく接点を持つきっかけを増やそうと考えて行動しています。

藤木:林さん自身も、10年前に「大変そうだな、難しそうだな」と感じたと言っていましたが、多分それが素直な感覚なんですよね。10年前でも今でも、インクルーシブデザインというものにまだ触れたことがない人は、最初は「なんとなく大変そう」「なんとなく難しそう」と感じてしまうんだと思います。商品開発という文脈でいえば、どうしても時間がかかってしまうというところはあって、今動いているプロジェクトもまだ「モノ」として形になっているものが無く、手応えや手触りがなかったりイメージができなかったりするんだと思うんです。開発プロセスをなるべく短くしたり、なんとなく大変そうだと感じるその感覚をプラスに変えていくことが私の仕事だと思っていますが、この1年は本当に勝負の時だと感じますね。

始まったばかりの取組みではありますが、ここから先、皆さんが描いている夢や展望を教えてください。

本澤:ビジネス的な意味だと、D&Iや多様性への配慮というキーワードが「カウコレ」の特徴としてお客様に認識してもらえるように、しっかりポジションを確立していきたいと思っています。一方で、2030年にはD&Iやインクルーシブデザインという言葉がなくなっているくらい、多様な人たちが当たり前に一緒に暮らし、学び、働いている世界になったら素敵だなとも思うんです。今の部署は女性比率が高いのですが、少し前までは女性である自分が職場内でマイノリティだったように、どんな人でも環境や立場が変わればマイノリティになることはあります。だからこそ、そうした「視点の切り替えスイッチ」を誰もが持って、当たり前に皆で暮らす世の中を目指せたらと思います。

林:私は家具だけではなく空間作りやコンサルティングも担う事業部にいることもあり、モノづくりに限らない、空間やワークスタイルのインクルージョンについても挑戦してみたいと思っています。オフィスデザインやワークスタイルといった側面からも、まだまだ変えられることはたくさんあるんじゃないかなと思うんです。

藤木:インクルーシブデザインは、一人や一人称で進めるものではないと思います。だからこそ、まずはコクヨ社員が当たり前に取り入れている状態を目指しながらも、本当はもっとネットワークを広げて取り組みを進めたいんです。日本にはたくさんのメーカーがあり、デザイナーもたくさんいる。だからこそ、皆で手を取って輪を広めていきたいです。ユーザーの方もたくさん繋がってもらって、日本中、世界中へネットワークを広げていくことが夢ですね。

取材日:2023.12.14
執筆:中西須瑞化
編集:HOWS DESIGNチーム

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