HOWS DESIGN

Vol.03 EVENT REPORT

暗闇の中での対話を通じて、多様性の本質を理解するワークショップを開催 ~「サステナブル・アカデミア」ダイアログ・イン・ザ・ダーク編~

掲載日 2023.12.07

コクヨ内の会場入り口に掲示されたダイアログ・イン・ザ・ダークのロゴマーク

2023年10月12日、中長期的な視点で社会課題に向き合うための実験場として2021年にリニューアルオープンしたコクヨの東京品川オフィス「THE CAMPUS」にて、参加者向けのイベント「サスティナブル・アカデミア」を開催しました。

「サスティナブル・アカデミア」とは、全参加者がコクヨのマテリアリティ(重点的に解決すべき社会課題)を自分ごととして捉え、自律的に行動することを応援するプログラムです。今回はマテリアリティの1つである「インクルーシブデザイン」をテーマに学びを深めました。

第1部では「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」を運営する一般社団法人ダイアローグ・ジャパン・ソサエティ(以下、DJS)と共同開発したインクルーシブデザインワークショップを、第2部では代表取締役の黒田と社外有識者であるSOLIT株式会社代表の田中美咲さんとのトークセッションを開催しました。
本記事では、第1部のインクルーシブデザインワークショップの様子をご紹介します。

自分の「当たり前」は誰にとっても「当たり前」なのか?

「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」とは、純度100%の暗闇の中で視覚以外の感覚を研ぎ澄まし、互いに心をひらく体験を通して「多様性の本質」を理解するためのエンターテイメント・プログラムです。
今回は「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」を日本で主催するDJS協力のもと、コクヨオリジナルのプログラムとして、純度100%の暗闇で行うインクルーシブデザインワークショップを企画し、THE CAMPUSで開催しました。

参加する参加者は会場に到着後すぐに、スマートフォンやノートパソコンなど光を発するものをクロークに預け、8名で構成される5つのグループに分かれます。全員が身ひとつでテーブルに着席していることを確認したのち、プログラムはスタート。コクヨの中でも接点が少ない参加者同士でグループが構成されたこともあり、会場全体が緊張感とワクワクに包まれていました。

まずはうっすらと明かりがついた状態で、視覚障がいのあるアテンダーの挨拶からワークショップがスタート。
「ダイアログ・イン・ザ・ダークを体験したことがある人?」という問いかけに、参加者数名が手を挙げたのを受け、司会をつとめるDJS代表の志村健介さんが「今、何人かが手を挙げてくれています」とアテンダーに言葉で説明します。普段当たり前に使っている「挙手」という手段では視覚障害のある方には伝わらない、というわかりきった現実を目の当たりにし、参加者はハッとした様子をみせていました。

その後、各グループの代表者がアテンダーを自分たちのテーブルに招き入れ、自己紹介をします。先ほどの気づきを踏まえ、自分が座っている位置や見た目の特徴を言葉で伝える参加者の姿が印象的でした。

視覚障がいのあるアテンダーが白杖を使いながら、先導するコクヨ社員の肘を持っている

視覚障がいのあるアテンダーを参加者が各グループへご案内している様子

暗闇の中で、深まっていく絆

自己紹介が終わり、明かりがだんだんと消え、会場全体が真っ暗になると、一瞬どよめきが起こります。純度100%の暗闇は、普段視覚情報に頼っている参加者にとって未知な体験ですが、司会の案内に沿って深呼吸をして心を落ち着かせ、暗闇の世界へと入っていきました。

暗闇での最初の体験は鉛筆削り器で鉛筆を削ること。手動の鉛筆削りを久しぶりに触る参加者も多く、使い方を言葉で確認しあったり、鉛筆と色鉛筆の違いを匂いや重さや触感で言い当てたりするなど、これまで経験したことがないコミュニケーションや、視覚以外の感覚を研ぎ澄ます体験ができたようです。

次に、粘土を使って「誰もが使いやすい文房具」を作りました。「好きな文房具」や「文房具にまつわるエピソード」を互いに話しながら、インスピレーションを膨らませていきます。鉛筆の周りに粘土をつけた「握力が弱い人でも握ることができる鉛筆」や、視覚障がいのある方でも使える「空振りしないはさみ」、「香りと形状で色を認識できるクレヨン」など、視覚障がいのあるアテンダーとの会話からさまざまなアイデアが生まれていました。

暗闇でのワークを終え、部屋が少しずつ明るくなると、いっきに現実の世界へと引き戻されます。暗闇でイメージしていた作品と目の前の作品のギャップから、言葉で伝えることの難しさや、そもそも暗闇で思い通りのモノをつくることの難しさを体験しました。また、明るくなってみると、グループみんなの顔が明るく、笑顔になっていることにも気づきます。暗闇の中で相手の声をしっかりと聴こうとする時間を過ごしたことで、心理的な距離が縮まっていることにも驚いていました。

暗闇の中でつくった粘土の作品を、スタンドライトの薄明るい光のなかでアテンダーが触れている

それぞれの作品をアテンダーに触ってもらい、アイデアを共有している様子

また、「ワークショップ中は、アテンダーに視覚障がいがあることを忘れていた」という参加者も多く、障がいの有無に関わらず、誰もが対等であるという多様性の本質を実感できた時間になったようです。

違いを、気づきに。気づきを、社会に。

日常生活で障がいがある方を見かけると、どこか一方的に「助ける」「支える」「手伝う」という言葉をイメージしてしまうことが多いと思います。しかし、実際には「互いに見えている世界が違うからこそ生まれる気づきがあり、その気づきが社会をより良くするきっかけになる」。気づきは常に双方向に生まれるものなのです。
HOWS DESIGNが掲げる「違いを、気づきに。気づきを、社会に。」というメッセージを込めて企画した今回の暗闇ワークショップでは、実際に多くの参加者がその感覚を体験していたのではないかと思います。

これからのコクヨに必要なのは、多様性から生まれる組織としての強さです。今回のワークショップで得た気づきを、これからの取り組みにつなげていけたらと考えています。

暗闇の中でつくった粘土の作品のアップ画像。スタンドライトの薄明るい光に照らされている

ワークショップで作られた個性豊かな作品

取材日:2023.10.12
執筆:清水碧
撮影:中西須瑞化
編集:HOWS DESIGNチーム

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