コクヨのサステナビリティ CEOメッセージ
価値協創の源泉であるコクヨの強みを最大限に活かし、
ヨコクを具現化していきます。
代表執行役社長 黒田 英邦
2023年の振り返りと第3次中期経営計画の進捗―想定通りの順調な成果
コクヨでは、2030年に売上高5,000億円を目標とする長期ビジョン CCC2030(以下、CCC2030)を実現するため、「森林経営モデル」を打ち出し、実行戦略である「第3次中期経営計画Field Expansion 2024(以下、FE2024)」を遂行しています。2023年は、FE2024の最終年である2024年への足がかりとなる重要な年でした。
2023年の実績を振り返ると、中国経済の回復の遅れが影響し売上目標は未達となったものの、対前年で増収となる3,287億円で着地しました。営業利益は上方修正した目標を上回り、対前年で大幅増益の238億円となり、政策保有株式の売却等も実施した結果、当期純利益も過去最高の190億円を達成しました。総括すると、順調な進捗であると捉えています。
事業別に状況を見ると、国内外の景気動向や原材料価格高騰等の影響により、伸長にばらつきが見られますが、コクヨ全体としては確かな手応えをつかむことができました。複数の事業において、課題や成長機会を的確に捉えながら成長につなげることができており、FE2024で課題として挙げていたポートフォリオ経営が着実に前進してきたことを実感しています。香港のオフィス家具メーカー「HNI Hong Kong Limited(現社名 KokuyoHong Kong Limited(以下、コクヨ香港)」の買収による中国・アセアン地域における業務効率化とクロスセルの強化はその一例です。また、インドのステーショナリー事業は、主力商品の供給力増強によるシェア拡大も順調に推移しています。未来への種まきとして実行してきた打ち手が着実に成果を上げています。また、コロナ禍で事業環境が大変厳しくなったオフィス家具についても、社員がお客様の働き方の変化をいち早く察知しニーズを捉えることで、商機につなげることができています。電話ボックスに似た可動式ブース「WORK POD」等は、ハイブリッドワークが定着し、さまざまなスタイルのリモート会議の開催が求められるようになった背景から生まれた商品です。
FE2024の最終年となる2024年は、これまで培ってきた事業ポートフォリオ経営の基盤をさらに強化し、売上高目標として、対前年比8%増の3,550億円を目指します。これは主に、日本ファニチャー事業とビジネスサプライ流通事業に加えて、海外ステーショナリー事業の順調な事業進捗による伸びを見越したものです。営業利益は、ライフスタイル領域における領域拡張の遅れ、第4次中計を見据えた人材やインフラ増強への成長投資等を踏まえ、当初目標数値には届かないことを予測していますが、ROEはFE2024の目標を上回る8%超の水準を見込んでいます。CCC2030の実現に向け、第4次中計をより良い状態でスタートするために、FE2024の最終年度目標を何としても達成したいと考えています。
価値協創の源泉=コクヨの3つの「強み」―
「当事者目線」「顧客のシーンを解決する方法論」「ユニークな人材」
前述の通り、FE2024は複数の事業において成長機会を捉えることで順調に進捗しており、これらはコクヨの価値協創の源泉ともいえる「強み」に起因すると考えています。
コクヨの「強み」の一つとして、お客様と共に物事を考え共創する企業カルチャーが挙げられます。コクヨが手掛ける家具や文具、オフィス用品、それらに関連する購買・流通サービスは、社員自身がお客様の立場をイメージしやすい事業です。従って、「自分が顧客」であり、かつ「顧客の課題を解決する当事者」という二つの立場を両立できるのです。一般的には、「顧客を観察する」ことがビジネスにおいて重要視されがちですが、より重要なのは「自分たちが顧客ならば」という思考であり、第三者として一方的に観察することでは不十分と考えます。この当事者目線の思考プロセスがあってこそ、新しいモノやコトが創造可能となり、それらを通じて得た成功体験がコクヨの文化として結実し、引き継がれています。
二つ目の「強み」は、社員全員が「どんな商品を売るか」ではなく「お客様のどのようなシーンを解決するか」という方法論に則って仕事を進めていることです。コクヨが目指すのは「WORK & LIFE STYLE Company」であり、その実現のために、お客様の働く環境や生活の「どのようなシーンに価値を提供すべきか」、常に思考を巡らせることが社員の習慣として根付いています。例えば、お客様のオフィス空間における働き方やコミュニケーションを、複数の家具の組み合わせを通じて改善していく提案は、その一例と言えます。また、文具を通じて勉強というシーンをより快適なものとしていく「女子文具」もその好事例であり、中国で目覚ましい伸長を遂げています。BtoBにおいてはファミリーマートとプライベートブランドの共同開発を行うとともに、生活者が購買するシーンに鑑み、店舗における商品棚のレイアウトまでを手がけました。課題解決において、商品単体のみならず使用シーンを考え抜くプロセスが、これらの実績につながっているのです。すなわち、提案を具現化できる人材と技術力の双方がコクヨの「強み」であると考えています。
この方法論は、コクヨの大切な価値観である「実験カルチャー」に支えられています。自社で、あるいは必要に応じてお客様とともに顕在化していない未充足ニーズを見極める「実験」を行い、それらを徹底的に見極めていきます。コクヨでは当たり前であるこの価値観が、ユニークな課題の発見や解決を可能にすると考えており、コクヨの商品開発においては、本プロセスが重要視されています。
これらの方法論の根底にはコクヨの人材のユニークさがありますが、コクヨらしい人材を表現して「誠実な変態」という言葉を使うことがあります。「誠実」とは、お客様の課題解決のための誠実な姿勢のことを指します。
また、徹底的に知恵を絞り工夫を凝らすそのこだわりぶりを「変態的」と形容しています。コクヨの価値観である「共感共創」を追求する姿勢、つまりお客様に共感してもらい共創の輪を広げていくプロセスは、将来にわたり継承すべき価値観でもあります。一方、「誠実な変態」が活躍できるか否かは組織の風土や企業文化に強く依拠しています。そのためには、個人の意見が尊重され、失敗よりもチャレンジすることが奨励される環境が確保されていなければなりません。さらに、次のチャレンジを臆せず実行できることの確約と心理的安全性が重要と考えます。従って、コクヨが持続的に成長していくためには、「誠実な変態」たちを支えるオープンかつフェアでフラットなカルチャーを育てることに重きを置くことが重要です。経営者として、そのような組織作りとカルチャーの醸成に、引き続き注力してまいりたいと思います。
「自律協働社会」の実現に向けた重点課題(マテリアリティ)の進捗と成果」
コクヨは、2022年に「ワクワクする未来のワークとライフをヨコクする。」というパーパスを発表しました。2023年は、パーパスを社内外のステークホルダーに認知してもらうことに注力した1年でした。CMで社員のヨコクを発信し、私自身も積極的にメディアに出演することで、まずはコクヨとしてのコミットメントを社内外に伝えるという目的は達成できたと考えています。もちろん大事なのはここからであり、長期ビジョンを具現化していく中で、「コクヨが何をヨコクし、実現するのか」を社内外のステークホルダーに明らかにしていくことが求められます。今はまだヨコクに留まってはいるものの、その実現に向けた社員の意識は高まっており、期待感を醸成できたと感じています。
CCC2030では、コクヨが思い描く未来シナリオとして「自律協働社会」の実現を打ち出していますが、これは非常に困難な挑戦だと認識しています。なぜなら「人が自律的に自分らしく生きること」と「協力してサポートし合っていくこと」は現代社会において両立しにくい考え方ともなり得るからです。
相反することを両立するためには、工夫やイノベーションが必要です。同時に、それらを通じて何を行っていくべきか、方向性を明確にしておかねばなりません。この認識のもと、コクヨは5つの重点課題を特定しています。これらの重点課題を解決することで、長期的に価値を創出し続けることを可能とするとともに、「自律協働社会」への礎を着実に築いていけることを確信しています。
重点課題の取り組みを推進するうえで、今年度最も重視したのは、社員の自発的・能動的な取り組みを促すことです。目の前にあるお客様の喫緊のご要望にお応えしつつ、中長期的なサステナビリティ課題とどのように向き合うか、この難題においてもまた工夫やイノベーションが必要になってきます。
そのような中で、重点課題の解決に向けた社員の創意工夫による成果が見え始めています。重点課題「社内外のWell-beingの向上」に係る取り組みの一つである「HOWS PARK(ハウズ パーク)」の構築が一例です。
これは、コクヨとコクヨの特例子会社であるコクヨKハートの社員が連携してインクルーシブデザインを考慮した商品開発を進める取り組みであり、新シリーズの上市率を2024年までに20%にするという目標を掲げています。
この取り組みで重視しているのは、「人が自律的に自分らしく生きること」と「社会としてそれらを協力してサポートすること」の2点です。「HOWS PARK(ハウズパーク)」の取り組みは、試験運用を経て2023年6月から本格稼動し、ワークショップを通じて商品開発を進めております。2023年度は「取り出しやすい箱入り封筒」が開発され、商品リリースに至りました。
また、重点課題「循環型社会への貢献」では、全国の子どもたちに参加してもらう「つなげるーぱ!」という使用済みノートを再生する環境学習プログラムが成果を上げています。2023年11月より取組みをスタートし、延べ86校の学校に参加いただき、約2万トンのノートを回収しました。積極的に参加を希望される小学校の先生や学生の方々が次第に増えており、それらに呼応するように、コクヨ社内でもさらなる新商品の開発意欲が高まっています。サステナブルな社会の実現に向けて、社員自らが自発的・能動的に行動し始めていることは、非常に意義深いと考えています。
2024年に向けて―人材マネジメントポリシーの運用、コーポレートガバナンスの強化
CCC2030が目標と定める売上高5,000億円を達成するためには、さらなる事業領域の拡張が不可欠です。2024年は人材やインフラ増強に対する成長投資を前倒しで実行し、さらなる飛躍につなげていきたいと考えています。
今後、領域を拡大していく中で、コクヨとして新しいチャレンジを必要とするテーマが増えることが予想されます。また、既存の事業においてもデジタル化やグローバル化などに対応していく過程で、それらを可能とする人材への投資がますます重要と認識しています。
こうした背景のもと、挑戦しやすい組織文化の構築と成長の機会を提供しつつ、個々人の能力発揮を促していくことを目指し、2023年に人材マネジメントポリシーを定めました(詳細は、「特集 人的資本経営」参照)。今後、本ポリシーに従って、取り組みを加速していきます。さらには、2024年は新卒採用・キャリア採用ともに増やすことを計画しており、特に新卒採用は前年の2倍の人数を採用しました。現在50歳以上の社員比率が高い状況であり、フレッシュな考えを持った新入社員の採用により組織の活性化を図ってまいります。また、既存の事業領域を超えて新しい価値創造にチャレンジできる人材の育成に努めてまいります。
CCC2030を実現するには、コクヨが社会価値と経済価値を創出しながら持続的に企業価値を向上していくことが求められます。その企業価値向上のための重要な施策の一つが、コーポレートガバナンスの強化です。その一環として、コクヨは監査役会設置会社から指名委員会等設置会社への移行を行いました。FE2024の最終年度より、経営の監督と業務執行が明確に分離された組織として運営してまいります。
2030年に向けてコクヨが目指す姿へと確実に近づいていくためには、意思決定のスピードを速める必要があります。現在の売上の成長を継続しかつ加速するためには、業務執行における迅速な意思決定が肝要です。指名委員会等設置会社への移行により、監督と執行の役割・責務を明確に分離することで、これまで以上にスピーディな意思決定を図っていきたいと考えています。そして、現場の社員が自ら積極的に挑戦し、PDCAサイクルを回していく意識の醸成に努めてまいります。
グローバルスタンダードである指名委員会等設置会社に移行することで、コクヨのコーポレートガバナンスへの考え方を、より多くの投資家・ステークホルダーの皆様にご理解いただけるものと考えています。
将来のありたい姿―ワークとライフがいかに変容しても「ワクワクする未来のワークとライフをヨコクする。」ことを通じて自律協働的な社会の実現に貢献していく
これからも世界は急速に変化し続け、人々のワークスタイルやライフスタイルも変わっていくことでしょう。価値観の多様化により、働く目的や学ぶ目的もさらに多様化することが想定されます。そのような社会において、よりポジティブな働き方や学び方、暮らし方をグローバルで提供していくことがコクヨの使命であると考えています。これはまさにコクヨのパーパス「ワクワクする未来のワークとライフをヨコクする。」を実現することであり、全世界に発信したいコクヨの存在意義と言えます。
その実現を通じて、働き方や学び方、暮らし方を自律協働的なものにしていくことで、より良い地球環境と社会を創出していくことが可能と考えています。
コクヨは引き続き、社会における存在意義を示し続けていくために、皆様からの信頼のもと、グローバルにおいて継続的なチャレンジを続けていきたいと考えています。未来のワークとライフをヨコクする、これからのコクヨに期待をお寄せいただくとともに、今後とも皆様のご支援を賜りますようお願い申し上げます。