職場風景 作物を育てる喜び、製品になる喜び

ハートランドだより

障碍者が主役の会社 1 顧問 仲井 道博
初めての出荷はたった60袋

私たちが栽培しているのは、サラダほうれん草です。ハウス栽培なので、季節や天候に左右されず、1年中収穫できるという利点があります。雨が降っても、冬の寒い時期でも、毎日、障碍者に就労の場を提供できます。

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1年中、安定した収穫ができるビニールハウス。
根への酸素供給がいいNFT式水耕栽培を採用している。

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収益性が高いため、サラダほうれん草を栽培しています。
冬場は約28日、夏場は約14日で収穫できます。

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がんばった社員は月間MVPとして表彰され、ごほうびシールをもらえる。シールをもらうためでなく、がんばった結果もらえるという指導が大事。

しかし、仕事を始めたばかりのころは大変でした。初めての収穫で出荷できたほうれん草はたったの60袋。正直、どうしようかと思いました。このままではビジネスにならないのではと不安になりました。

その後、作業の工夫や改善を重ねた結果、今では日糧換算3,000袋のほうれん草を出荷できるようになりました。機械の導入による効率化や、社員のスキルアップによる成果です。
ひとつの作業に1時間かかっていたのに、3カ月後には10分でできるようになった社員もいましたよ。指導する社員がほめたところ、本人はあっさりした反応で「自然にできるようになった」という顔をしていました。
障碍のある社員と働いていると、こんな風にまわりが驚かされることがたくさんあります。

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あいさつを何度でも受け入れる

障碍者と一緒に働くためには、これまでとは違った意識が必要となります。大切なのは、障碍を個性や特性としてとらえ理解することです。

当社の社員はみんな元気よくあいさつをします。それはいいことなのですが、困ったことに、会うたびに何度でもあいさつをしてしまいます。

「そんなに何度もあいさつをしなくていい」というと、まるっきり挨拶をしなくなってしまいます。状況を見て判断する、応用する、ということができないんですね。
ですから私たちは、彼らのあいさつを「特性」だと理解し、何度でも受け入れます。
当社には全国から見学者が大勢訪れます。見学にいらした方々にもこの点をお話して、2度、3度のあいさつを受け入れていただいています。

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すごい能力がある。ただバランスが悪い
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昼休みは全員で弁当を食べる。会話がかみあわないことも多いが、和気あいあいとした雰囲気で仲がいい。

障碍を個性や特性だと思えるようになったのは、障碍者と一緒に働くようになってからです。

ある社員は、日経新聞に掲載されている『私の履歴書』という記事の内容を全部覚えています。「2月1日は誰それの記事、3月1日は誰」とすべていえるのです。
そういうすごい能力があるのに、160円の新聞を買うために200円出したらお釣りはいくらか? といった簡単な計算はできないんですよ。

路線図を全て覚えているのに、電車の乗換えができないという社員もいます。できることと、できないことのバランスが悪いんですね。

そうした障碍者と、私たち健常者はどこが違うのでしょうか。得意なものが違うだけで、人としての違いはないんじゃないか。そう思うようになりました。

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メガネをかけるように、障碍を取りのぞく

私は老眼鏡がなければ、小さな文字が見えません。いうならば、老眼という障碍を持っているわけです。しかしメガネをかけることで、見えないという障碍を取りのぞくことができます。
同じように、彼らの障碍を取りのぞくことによって、働けるようにしてあげたい。

障碍を取りのぞくメガネにあたるのが、コンピューターや機械といった設備です。障碍者には難しい温度管理をコンピューターで自動化したり、パネル洗浄機を導入したり。ほかにも、はかりに印をつけたり、ケースのマス目にほうれん草を1袋ずつ入れることで数がわかるようにしたり、さまざまな工夫によって障碍を取りのぞく努力をしています。

(詳しくは 設備や業務の工夫 をご覧ください)

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ひとつのマス目に、ほうれん草を1袋ずつ入れていく。
数えなくても、マス目がいっぱいになれば規定数に達しているとわかる

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得意な仕事を見極めて、能力を伸ばす

一人ひとりの個性によって得意なことが違うというお話をしました。
仕事においても、個人の特性や障碍の違いによって、できる作業とできない作業があります。

たとえば、小さなスペースに種を入れていく播種作業は、根気が必要な細かい作業です。向かない人がやると、10分で嫌になってしまうでしょう。ところが、これを何時間でもやり続けられる社員がいます。

数に強くて、話をしながらでもほうれん草の数を数えられるという社員もいます。試しに、途中で「今、段ボール箱に入れたほうれん草は、何袋目?」と尋ねると、「23袋目」という答えが返ってきました。数えてみると、本当に23袋目でした。

ほかにも、ベッド洗浄など複雑な工程を上手にできる社員や、きれいに掃除をするのが得意な社員などがいます。
こうした個人の特性を見極め、できるだけ得意な仕事を割りふり、作業効率を上げています。

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根気のいる播種作業。新しい品種を試し、
発芽率を比べる実験も行っている。

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1袋分のほうれん草の重さをはかり、自動包装機に入れていく。
複数の仕事を任せられる社員もいる。

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