Vol.05 CASE
使い始めから終わりまで、多様な人にとっての取り出しやすさを妥協しない
「取り出しやすい箱入り封筒」
掲載日 2024.01.24
Interviewee
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青井 宏和
株式会社カウネット
MD本部
商品企画部 -
倉野 峻輔
株式会社カウネット
MD本部
商品企画部 -
小原 弓佳
株式会社カウネット
MD本部
商品開発部
今回取り上げるHOWS DESIGNプロダクト
今回取り上げるHOWS DESIGNプロダクト
カウネット取り出しやすい箱入り封筒
箱ごと棚に置いて封筒を取り出せる商品。一目見ただけでどこから開けるか分かりやすい視認性と、軽い力でも切り取りやすいミシン目が特徴。中身が少なくなっても最後の1枚まで取りやすい取り出し口形状や、使用後に箱を潰しやすくするための切れ目も入っており、「最初から最後まで使いやすい」を意識した商品。
リードユーザーの行動観察で見えてきた、潜在的な「困りごと」
——今回、「取り出しやすい箱入り封筒」の開発に至ったきっかけを教えてください。
倉野:今回の企画は、以前からあった「取り出しやすい箱」シリーズに「透けない窓付き封筒」タイプも追加しようということでスタートしました。その中で、せっかくならコクヨの社内目標としても設定されているインクルーシブデザインの手法を取り入れて、より多くの人にとって取り出しやすい箱に改善しようという方針になりました。
左:既存の取り出しやすいシリーズ、中:今回の取り出しやすいシリーズ(テープなし)、右:今回の取り出しやすいシリーズ(テープ付き)
——開発に向けて、具体的にどのような取り組みを行いましたか?
小原:コクヨの特例子会社であり、一緒にHOWS DESIGNに取り組んでいる仲間であるコクヨKハート株式会社(以下、Kハート)のメンバーに協力してもらい、試行錯誤しながら3回のワークショップを実施しました。ワークショップでは、「取り出しやすい」にこだわった既存の商品は、握力や指の力が弱い方や上肢障がいがある方にとっても本当に取り出しやすいのかを調べるために、既存商品の使い心地をKハートのリードユーザー(※)の方々に試してもらいました。
青井:一般的な商品開発は、アンケート調査やユーザーの声から浮き彫りになった「困りごと」が明確にある状態からスタートし、それを解決するために開発を進めていくことが多いです。しかし、今回はインクルーシブデザインという新しい手法を取り入れたため、リードユーザーの困りごとを“見つける”ところからスタートしました。なので、ワークショップでは、既存の「取り出しやすい箱」シリーズの商品をノーヒントで開けてもらうことから始めました。
※リードユーザーとは、障がいがある方をはじめとした社会のバリアに阻まれている方々の中で、製品をより良い状態にするため導いてくれる対象・開発の参加者を示します。
——ワークショップではどのような気づきがあり、その気づきをどのように開発に活かしていったのでしょうか?
倉野:ワークショップを進めていく中で具体的に4つの気づきがありました。1つ目は、そもそも開け方がわかりにくいという点です。はじめに既存の商品を「開けてください」とお願いし、リードユーザーの方々の行動を観察してみると、「どこから開けるのか」や「どの状態が完成形なのか」という疑問を抱き、悩んでいらっしゃる様子が見られました。その様子から、私たち開発担当者やこの商品を発注する人はWEB上の商品ページを見て商品の完成形を知っているけれど、実際に初見でこの商品を使う人は、完成形を知らないということに気づきました。この気づきをもとに、初見でもわかりやすいように開封手順を箱に記載し、切り取る部分と残す部分の色をはっきり区別させるデザインにしました。
小原:また、役割の違いに配慮した点で言うと、発注担当者にとって必要な情報と使う人にとって必要な情報を整理し、記載方法や記載する場所も工夫しています。具体的には、使う人にとっては、「中に入っている封筒のサイズ」と「封筒の開封口にテープがついているかどうか」が必要な情報なので、棚にしまったときに前に来る位置には、封筒のサイズのみを記載するようにしています。そして、テープつきの封筒が入った箱は開け口を青に、テープがついていない封筒が入った箱は緑に色を統一し、種類が一目でわかるようにしました。一方で、発注担当者にとって必要な情報である「商品名」や「品番」は、箱を棚から取り出したときに見える側面に記載しています。
ワークショップでの気づきについて語る商品企画担当の倉野
倉野:ワークショップ中での気づきの2つ目は、既存の商品を開けてもらうとき、ミシン目が切り取りづらいという点です。手先に麻痺のある方や手に力を入れづらい方にとって、ミシン目が堅く、開けづらそうにされているのが印象的でした。そこで、今回の商品は軽い力でも切り取りやすいミシン目の形状にしました。
小原:ミシン目についてもワークショップで使い心地を試してもらって決めていきました。点線の粗さや太さの異なる8種類の形状のミシン目を、3種類の紙でそれぞれ試してもらうことができたからこそ、今回の究極のミシン目の形状を見つけることができました。
ワークショップで試してもらったミシン目ピッチの試作例
倉野:気づきの3つ目は、切り取ったあとにゴミがたくさん出てしまうという点です。既存の商品では、ゴミがばらばらと4つ出てしまい、それを1つ1つ手に取って捨てていくというリードユーザーの方の行動がみられました。その様子を見て、ゴミが1つであれば捨てるときの手間や負担が少しでも減らせるのではないかと考え、今回の商品は開封時に出るゴミが1つだけの形状にしました。
気づきの4つ目は、使い進めて後半になってくると、下にある封筒が取り出しづらいという点です。封筒の量が減ってくると、リードユーザーの方が箱の奥まで手を入れて探るか、箱ごとひっくり返して取り出すという行動が見られました。この気づきから、最後の1枚まで取り出しやすいように正面の取り出し口の形状を工夫しました。
青井:ただヒアリングをするだけであったら、箱の中に封筒がたくさん入った開封時の状態で、上にある数枚の封筒の取り出しやすさにしか目がいかなかったと思います。そういった点で、今回の取り組みでは、商品の使い始めから使い終わりまで試してもらいながら一緒に考えていくことができたというのがとても重要で、その結果として、より深い解決策が見えてきたのだと思っています。
——ワークショップ中はどのようなことに気を付けていましたか?
青井:単なるヒアリングで終わらせるのではなく、対話をしながらリードユーザーの方々の行動に着目することを心がけていました。リードユーザーの方々は、日常の中で商品の使いにくさに慣れてしまっており、本人たちでさえも困りごとに気づいていないことがあります。でも、そのような潜在的な困りごとこそ実は世の中のみなさんにも共通する困り事に繋がっていると思うんです。だからこそ、先ほどお伝えした4つの気づきにおいても同様で、リードユーザーの方々の行動から、私たちが汲み取り、対話を重ねることで困りごとを形にしていくということがとても重要です。
——リードユーザーの方々の行動を汲み取るために大切にしていたことを教えてください。
倉野:一番は想像力を持つことです。箱の開け方を例にとっても、自分はこう開けるけど、他の人は開け方が少し違っている。「それはなぜなのか」を考え、相手の立場に立って想像し、質問をしていくということが重要だと思います。
小原:私も自分との違いという観点で考えるようにしています。自分では当たり前に両手で箱を開けていたけれど、リードユーザーの方は片手を使って箱を開けていた場面では、「どうして両手を使わなかったのか」と尋ねてみました。そうすると「商品を見ただけでは開け方がわからなかったから」や「左手が使いづらいから」と教えていただくことができました。このようなコミュニケーションによって、自分の当たり前が他の人にとってはそうでないことに気づき、困りごとが見えてくるのだと思います。
リニューアルした開け口について説明する商品開発担当の小原
商品を通して伝える、新たな価値とインクルーシブな波
——今回の商品をリリースしてから、周囲の反応はいかがでしたか?
倉野:発売したばかりで、レビューはまだいただけていないのですが、社内の反応は肌で感じています。コクヨのWEBページにも大々的に取り上げていただき、同僚からの認知度も他の商品と比べると圧倒的に高いので、誇りをもって推すことができる商品です。
青井:私は、リードユーザーの方々へ出来上がった商品をお見せしたときの反応が一番印象に残っていて、「めちゃめちゃ使いやすくなった」と言ってくださったのを覚えています。ストレートに「やって良かった」と思いました。また、今回の商品は、“Before”と“After”をわかりやすく伝えることができ、一目でデザインの工夫を感じられるので、社内外のインクルーシブデザインを検討している方々に伝えやすいというメリットがあります。
小原:私たちとしても推しやすい商品で、新たなインクルーシブデザインの取り組みとして認知してもらえるので、新規のお客様が見つけやすい商品とも言えます。また、インクルーシブデザインに興味を持っているお客様がカウネットを知ってくださるきっかけにもなるのではないかと思っています。
既存の取り出しやすいシリーズ(左奥)と今回の取り出しやすいシリーズ(手前)のBefore/After
——今回の取り組みを通して具体的にどのような考えの変化があり、それを今後にどうつなげていこうと考えていますか?
倉野:今回の取り組みは、改めて自分の先入観に気づくきっかけになりました。自分が把握しているからといって初見の人にとっても把握できるとは限らないこと、そして、その事実にしっかりと気づいていかなくてはならないことを学びました。今後は他の商品に活かしていくのはもちろんですが、モノだけでなくWEBページなどにおいても、初見の人にわかりやすいよう作っていきたいと考えています。
小原:今回の取り組みは、社内外どちらに対してもインクルーシブデザインを伝えていくための良い波が作れていると考えています。今後も多様な人に配慮した商品をたくさん作っていくことで、お客様がカウネットの商品により興味を持ってくださったり、他社が「カウネットもやっているからうちもやってみよう」と思ってくださったりすると嬉しいです。そうすることで、多様な人に配慮したモノや考えがあふれる世の中になっていってほしいと思っています。
青井:今回の取り組みを通して、既存商品には改善できるところがまだまだたくさんあり、そこに着目することで、多様な人に使いやすさを感じてもらえるのだということに気づきました。なので、今後も新しい商品だけでなく、既存の商品においても多様な配慮を考え、改善することも検討していきたいと思っています。特に、箱や袋などの「開けやすさ」はほとんどの商品に必要なことなので、カウネットの商品はすべて開けやすいという状況を早く作れたらと考えています。
カウネットでのHOWS DESIGNの今後について語る商品企画担当の青井
取材日:2023.12.14
執筆:清水碧
撮影:中西須瑞化
編集:中西須瑞化、HOWS DESIGNメンバー