HOWS DESIGN

Vol.11 INTERVIEW

感情豊かな手話を。会話を増やし、人と人のつながりを作るために始めた手話解説YouTube

掲載日 2024.05.27

コクヨ本社の前で、インタビューを受けたメンバーが横一列に並んでいる様子

Interviewee

  • 中川 英明

    コクヨKハート株式会社
    ST開発部

  • 大伴 和子

    コクヨKハート株式会社
    管理室(手話通訳士)

  • 德田 美海

    コクヨKハート株式会社
    印刷統括部

  • 南部 拓馬

    コクヨKハート株式会社
    印刷統括部

  • 白保 和弘

    コクヨKハート株式会社
    ST開発部

    (写真左から)

コクヨグループでは、特例子会社であるコクヨKハート株式会社(以下、Kハート)と連携しHOWS DESIGNに取り組んでいます。今回はKハートで取り組まれている手話解説YouTubeチャンネルの取り組みについてご紹介します。

現在、どのようにYouTubeチャンネルを運用されているのですか?

白保:コクヨKハートのYouTubeチャンネルでは、手話を紹介する動画を投稿しています。

担当者は現在6人いて、メインの出演者である聴覚障がい者の南部さんと徳田さん、動画編集を行っている後藤さんと松井さん、ボイスソフトの作成を行う村田さん、監督を担当する僕で運営しています。あと、プロジェクトリーダーとして中川さんにもサポートいただいています。

動画コンテンツを作る際、最初に僕が解説付きの台本を作成し、南部さんと徳田さんに確認してもらって意見を出し合って内容を決めていきます。そして撮影に進みますが台本に従ってただ淡々と進めるのではありません。お二人には楽しそうな動きを足してもらうなど自由にアドリブを入れてもらっています。

最初は「数字」「曜日」「家族」といったテーマごとに簡単な手話を紹介していたのですが、投稿を続ける中で視聴者の方が飽きないように、手話で実際にコミュニケーションしている動画や季節の話題も取り入れるなど工夫していますね。

緊張しつつも、笑顔で、YouTubeチャンネルを開始した経緯や役割について語る白保(しらほ)さん

取材に参加する白保

南部:私たちは白保さんが作ってくれる台本をみて「こういう手話の表現がいいと思う」「こんなふうに説明するのはどうですか」と聴覚障がい者の立場から意見しています。作ってもらった台本の流れを精査していくイメージです。

動画で手話を行う際に大切にしているのは、動きを大きくすること、ゆっくりやること、表情や表現を感情豊かにすることです。無表情な手話では怖いと思うんですよね。だからニコニコと表情豊かな手話になるようにいつも意識しています。

なぜKハートでYouTubeチャンネルを開設することになったのか、その経緯を教えてください

白保:背景にKハートの人数構成があります。2024年4月現在、Kハートには社員が127名いるのですが、そのうち25名が聴覚障がい者の方です。部門によっては日常的に手話を使用しているところもあり社内で手話講座を開いたりもしています。

過去には近隣住民の方に向けの手話教室も行っていました。これは地域の方が聴覚障がいであることをご存じなく「挨拶したが無視された」という声がきっかけで始まったもの。地域の方への説明と手話を広げることを目的に実施していました。

中川:しかし、コロナ禍になって社内外向けの講座や教室がすべて中止になってしまったんです。手話は言葉なので使わないと忘れてしまう。そこで、手話を教えてくれていた先生方と「復習の意味で動画を撮りませんか」という話が進み、まずは社内で動画を作成し共有しました。すると、白保さんたちからYouTubeに投稿してみてはと提案をもらったんです。目で見て学べる動画だったら、いろんな方が手話を学んでくれるんじゃないかという提案でした。

確かにそうかもしれないと感じ、2020年の7月ごろに社内の聴覚障がい者の方に「YouTubeやってみませんか?」と声をかけました。そのときに「やりたい」と率先して手を挙げてくれたのが、南部さんと徳田さんでした。

優しい笑顔で皆さんを見守りながらインタビューに答えているプロジェクトリーダーの中川さん

取材に参加する中川

南部:YouTubeに顔を出すことを嫌がる方も多かったのですが、私は手話教室の先生や手話劇の劇団員として活動していたので、抵抗はなくて。ぜひやってみたいという気持ちで参加しました。

徳田:私はいろんな人と会話ができるようになりたかったんです。特に家族との会話ができるようになりたいと思っていました。私の家族は耳が聞こえる人ですが、手話を覚えるのに苦労していて会話ができない状態だったんです。教科書で勉強しようともしてくれたのですが、テキストや絵だけで動きのある手話を理解するのって難しいじゃないですか。だから、YouTubeを通して手話を広げ学びやすくすることで、コミュニケーションがとれるようになるんじゃないかなと思い喜んで参加しました。

YouTubeに取り組み始めて、周りの方の反応はありますか?

白保:周りの社員からは「わかりやすく手話を学べる」「お二人のアドリブがおもしろい」といった声があります。動画がアップされるたびに出演している南部さんと徳田さんの演技力が上がっていることに注目する人もいました(笑)。

僕個人としても、聴覚障がい者の方と手話で話すことに感じていた心理的なハードルがYouTubeを続ける中で下がってきたのを感じています。多分、お二人がYouTube内で自然に楽しそうに話してくれているからだと思いますし、実際手話で話すってすごく楽しいんですよ。

南部:私たちのYouTubeがきっかけで、手話サークルに入ったという話も聞きます。手話がもっと普及する後押しになって、話せる人が増えればいいなと思って始めた取り組みだったので、YouTubeを始めて良かったと思います。

YouTubeチャンネルをきっかけに手話の普及につながったことを手話を使って答えている南部さん

手話を使ってインタビュアーの質問に答える南部

聴覚障がい者の方が働きやすくなるように、オフィスや環境にどのような工夫が必要でしょうか?

中川:Kハートではパトライトやカーブミラーの設置を行っています。サイレンが聞こえにくい聴覚障がい者の方は災害発生を感知するのが遅れてしまうことがあるため、パトライトで知らせます。カーブミラーは足音が聞こえなくても衝突を防げるようにするため。「音を見える化する」ための取り組みは継続して進めています。

白保:僕が所属するKハートST開発部では、部内に向けた2~3秒程度のコンパクトな手話動画を作成しています。業務で使われたり部内でよく話されたりする用語の手話を撮り、データを溜めている手話辞典のようなものです。現在、約400個の動画があります。

台本を見ながら、事前のすり合わせをしたあと、動画を撮影をしている様子

動画の撮影の様子

白保:これを作ったことによって手話の組織学習が進みました。1年目に入社した社員の方が動画を見て自主学習し、すでに手話をたくさん覚えています。これは部内用に作っているのでYouTubeには投稿できませんが、僕たちが作る動画がこういった学習に使われるようになったらいいなと思います。

徳田:私の場合、困ったときはコミュニケーション支援アプリの『UDトーク』やメモパットを使った筆談をしています。こういったものを使えば、手話が分からない方ともコミュニケーションがとれるので便利ですね。

中川:また、会議の際には『VUEVO(ビューボ)』というサービスを使っています。これは、複数人の会話を同時に聞き取ってくれるツールで、音声認識の精度が高く、発話の内容とそれを話した人がいる方向がわかるというものです。通常、みんなが一斉に話すと翻訳の手話が間に合わず、誰が喋ったのか理解するのも困難でしょう?その課題解決につながるものでKハート内で段階的に導入を進めているところです。

このように現在は様々なツールがあり、できることもたくさんあります。そのため大事なのは、聴者と聴覚障がい者問わず、コミュニケーションがスムーズになる仕組みを作れないか検討し続けることではないでしょうか。

今回の取材の様子。大きなテーブルを手話通訳の大伴さん、インタビュアーの田中さんも入って囲み、画面でYouTubeチャンネルや社内用の動画を見ながら、インタビューを進めた

今回の取材の様子。手話通訳の大伴さんにも参加していただき、
全員でコミュニケーションをとりながらインタビューを進めた。

最後に、YouTubeを通してやりたいこと、伝えたいこと、今後の展望を教えてください

南部:まずは、このYouTubeチャンネルが手話を知る入口になって、手話を覚えてもらえたら嬉しいです。その時に、私たち聴覚障がい者のことだけではなく、色んな障がい者のことを知ってもらえたらいいなと思います。向き合い方や基礎知識など、色々なことを知ることができたら、日常生活の中でどんな障がいがある方と会っても、自分も相手も困らないという状況を生み出せるんじゃないかと思っているからです。

それから、YouTubeを見てくれた人と会うと手話で表現してくれて「覚えたよ」と伝えてくれる、それが純粋に嬉しいです。1人でもそういう人が増えると嬉しいので、今後もそれを目的に発信を続けていきます。

徳田:私は、やっぱり「会話を増やしたい」という思いがあります。健常者も障がい者も関係なくコミュニケーションの壁がなくなり、つながりが生まれればいいなと思います。

身近に困っている人がいれば、その人に対して何かできることはないか? と考えたり。助け合ったり、役に立とうと思い合ったりすることが当たり前になっていけば、もっといい世の中になっていくんじゃないかなと思うんです。

YouTubeチャンネルをきっかけに「会話を増やしたい」という思いを語る徳田さん

手話を使ってインタビュアーの質問に答える徳田

白保:僕は健常者の方に手話をもっと知ってほしい。なかなか難しいことではあると思うのですが、私たちのYouTubeが手話を知る入口になれたらと考えています。そのためにも、まずは登録者100人を目指したいですね。

あと、出演してくれる聴覚障がい者の方が増えたら、いつか手話劇をやってみたいとみんなで話しています。Kハートのオフィスでやったのですが「3匹の子豚」とか「ぐりとぐら」とかを手話で演じるんです。手話を知らない人からしたら、どういう劇になるのか興味が湧くんじゃないかな。手話を丁寧に伝えつつ、好奇心や学習欲をくすぐるおもしろいコンテンツを作って、その先に人と人とのつながりを生むことができたら嬉しいです。

コクヨKハートYouTubeチャンネル
https://www.youtube.com/@user-wo9mf7zy4u/videos

コクヨKハート
https://www.kokuyo-k-heart.com/

取材日:2024.04.12
取材:田中美咲
執筆:泉知樹
撮影:福崎陸央
編集:中西須瑞化、HOWS DESIGN チーム

シェアする

  • X
  • facebook
もどる
ページトップへ