SUTENAI CIRCLE

Vol.12 CASE

対話が生み出す、働きやすいオフィス。コクヨのD&Iオフィス空間構築サービス(前編)

掲載日 2024.06.12

画像:対話が生み出す、働きやすいオフィス。コクヨのD&Iオフィス空間構築サービス(前編)

コクヨでは、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)の視点からオフィスをデザインするD&Iオフィス空間構築サービスの提供を開始しました。そこには、特例子会社コクヨKハート株式会社(以下、Kハート)との協働によって生まれたダイバーシティオフィス「HOWS PARK」立ち上げの知見が活かされています。「HOWS PARK」の設計・デザインに携わった2人に、話を聞きました。

Interviewee

  • 武田 雄次

    コクヨ株式会社
    ワークプレイス事業本部スペースソリューション本部

  • 栗木妙

    コクヨ株式会社
    ワークプレイス事業本部スペースソリューション本部

    (写真左から)

D&Iオフィス空間構築サービスには「HOWS PARK」で培われた知見が活かされているとのことですが、そもそも「HOWS PARK」プロジェクトが立ち上げられた背景や目的について教えてください。

栗木:コクヨは1940年に印刷工場で聴覚障がい者の採用を開始して以来、約80年にわたり障がい者の方と一緒に働いてきました。そして、現在は「Kハート株式会社」と「ハートランド株式会社」の2社の特例子会社で多くの仲間が働いています。Kハートが事業領域の拡大を図りながら成長するなかで拠点が手狭になったこともあり、一部部門を大阪本社ビル内に移転することになりました。そこで、あらたな場を構築するにあたって目指したのが、Kハート社員の働く環境を改善すること、Kハート社員とコクヨ社員の交流を促す場であること、社内外の交流によって新たな価値を生み出す場であることです。

武田:それらの目的をかなえるべく、インクルーシブデザインの手法を用いて企画設計した「HOWS PARK」※が、プロジェクト立ち上げから約2年後の2023年3月にオープンしました。

※HOWS PARKについて
https://www.kokuyo.co.jp/newsroom/news/category_other/20230601cs1.html

インクルーシブデザインとユニバーサルデザインは、何が違うのでしょうか。

栗木:ユニバーサルデザインはすべての人を対象としたデザインです。わかりやすく言うと「みんなにとって使いやすいものを作る」ということになります。作り手がみんなにとっていいと思うものを設計するわけです。一方インクルーシブデザインは、目の前のリードユーザーの困りごとをリードユーザーと一緒に考えて一緒に作っていきます。特定の困りごとに丁寧に向きあって作られたものが、結果的にリードユーザーだけでなく多くの人にとって使いやすいものになる、という考え方です。

では、実際にオフィスづくりはどのように進めたのでしょうか。

武田:とにかく実際に使う方との対話を大切にしながら進めました。私たちは東京のオフィスで勤務しているのですが、2週間に一度は大阪本社でワークショップを開き、さまざまな障がいのあるKハートのメンバーに確認しながら進めていきました。また、一緒に働く障害のないメンバーにも使い勝手などを聞きました。

栗木:話を聞いたり、実際に動いて動線や必要なスペースを確認したりと設計のためのディスカッションを重ねるなかで、私たちの立てていた仮説とメンバーの声との間にギャップがあることもわかってきました。

武田:例えば、精神障がいのある方などが、仕事に向けて心を整えたり、精神的につらいときに、一人になって静かに気持ちを落ち着かせるための「カームダウンスペース」というものがあります。このスペースを設計するにあたり、心を落ち着かせるための空間だから、リラックスできる空間がいいだろうと考え、ゆったりした席で照明を暗くしてカーテンで仕切った仮設ブースを試作してみました。
ところがKハートメンバーに試してもらうと「カーテンを閉めるシャッという音が苦手です」「明るいほうが落ち着きます、暗いと逆に不安になる」など、さまざまな意見が出てきました。また、リラックスのために横になれるスペースも考えていたのですが、「さぼっていると思われそう」「横にならないといけないくらい具合が悪ければ、医務室に行くか帰ります」と。
言われてみれば確かにそうですよね。でも自分だけで考えているとこのような視点が抜けてしまいがちです。だからこそ対話を重ねることが大切なのだと気づきました。そこで、カームダウンスペースがどうあるべきか、というところから話しあい、照明や椅子、スペースの仕切りなどを決めていきました。

栗木:頭で考えて仮説を立てても、実際に聞いてみたり体験してもらったりすると全く違う要望や事情が見えてきます。「ここはこうすればいい」という標準値はないことがわかり、実際に利用する方と丁寧に対話を重ねながら、一つひとつ決めていくことが大切だと実感しました。

他にどんな点を工夫しましたか。

栗木:どのような障がいがあるかによって、適した環境が異なるため、配慮の仕方も違ってきます。

武田:例えば、聴覚障がいのある方は隅の席を好まれる傾向があります。視覚優位で情報をキャッチしているので、オープンなオフィスでは人が目の前を通ったときに、自分に話しかけているのではないかと気になってしまい集中しにくいそうです。なので、席をパーティションで囲い、視線が気にならないようにしています。

栗木:コーヒーカウンターについても工夫しましたよね。

武田:はい。コーヒーを淹れるためのカウンターの下は収納となっていることが一般的ですが、それだと車椅子の脚が当たるため、正面からカウンターに近づけず、横向きでコーヒーを淹れていると知りました。そこで、コーヒーカウンターの下の空間を空けて、車椅子の方がスムーズにコーヒーを淹れられるようにしました。
他にも車椅子でのアクセスがスムーズになるよう出入口は全て引き戸にしています。自分で車椅子を使用してみてわかったのですが、ドアを開けて車椅子で通り抜けるのはとても大変な作業です。開き戸の場合、ドアノブを掴み手前に引いて開けながら、同時に車イスを前進させて扉をくぐりぬけなければなりません。タイミングが合わないと目の前でドアが閉まってしまったり、車椅子がドアに挟まれてしまったりすることもあるんです。
また、引き戸の位置にも工夫しました。通常は部屋の隅の方に設置することが多いのですが、車椅子では足が体より前に出ているので、壁ぎりぎりだと戸に近づくのが大変なんです。どれぐらい壁から離れていれば開けやすいのか、実際に検証しながら決めていきました。

栗木:色についても工夫をしています。壁の色とドアの色にめりはりをつけて、色弱の方や弱視の方にも判別しやすくしたり、真っ白い壁紙をやめて優しい色合いのグレージュやアイボリーを使ってやわらかな印象にしたり。

武田:この空間を使う障がいのあるKハートメンバーから話を聞いて仮説を立て、行動観察やヒアリングを通して検証し、実際の設計を行う、この過程が非常に大切でした。

今後の展開は。

栗木:形になった喜びはありますがこれで完成だとは思っていません。どこのオフィスもそうですが、作って終わりではなく使いこなしていくことが大切です。ワークショップを行い、対話しながら作ったからといって、それがずっと最適であり続けるとは限りません。使っていく中で気づく、使いにくさや不具合などもあります。使う人が変われば最適な形も変わります。アップデートし続けていく必要があるのです。
また、空間だけでは解決できないこともたくさんあります。HOWS PARKという場の役割の一つには「Kハート社員とコクヨ社員の交流を促すこと」がありますが、場ができたからといって交流が生まれるわけではありません。人が集まり、交流が生まれる仕掛けが必要ですし、社員の意識を変えていくことも大切です。HOWS PARKができて一年半。さまざまな仕掛けを試しながら、交流の場として現在進行形で成長を続けています。
(後編では構築後の社員の意識の変化とD&Iオフィス空間構築サービスについてご紹介します)

「ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)オフィス空間構築サービス」を開始
(コクヨプレスリリース)
https://www.kokuyo.co.jp/newsroom/news/category/20240405fn1.html

取材日:2024.04.24
執筆:稲田和瑛
撮影:ヤマグチイッキ
編集:HOWS DESIGNチーム

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