事業等のリスク
当社グループは、グループ経営を取り巻く様々なリスクを網羅的に把握・評価し、経営への影響を適切にコントロール(回避・低減・移転・受容)するリスクマネジメントの推進のため、代表執行役社長の諮問機関として「リスク委員会」を設置し、リスクマネジメントに関わるテーマについて全社的な立場から審議し、代表執行役社長に答申するとともに重要性や緊急性の高いリスクが認められた場合には、取締役会又は監査委員会に報告することとしております。
また、グループ全体のリスクマネジメント体制を強化するために、「リスクマネジメント本部」によるグループ全体のインシデント情報の集約化や発生事象別のリスクレベルに応じた適切な対応方針の策定と実行体制の構築を図っております。
有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、経営者が連結会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスクは、以下のとおりであります。
また、文中の将来に関する事項は、有価証券報告書提出日現在において当社グループが判断したものであります。
(1)外部環境に関連するリスク
1)経済状況
当社グループの売上は概ね日本国内向けであり、日本国内の景気変動に伴う企業収益や設備投資、公共投資の動向、また国内人口動態の変化が、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。また、当社グループの販売生産、仕入の一部はアジアをはじめとした世界各地で行っておりますが、当社の主要な海外市場のひとつである中国では、景気の停滞感が続いており、今後の先行きに不透明感があることに加え、米国の政策の影響等、各地域の政治経済・社会情勢の変化や各種規制、ESGを巡る潮流等の影響が増大した場合、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
これに対し当社グループは、持続的成長に向けて事業領域を拡大していく方針であり、国内においては「モノからコト」への事業モデルの変革に取り組むことで、既存事業の領域拡大や新規事業の創出を図っております。
また、海外においては各国各地域のカントリーリスクを注視しており、海外展開のさらなる拡大に伴い、各現地法人と国内関連部門が連携してそれぞれの国、地域の政治、経済情勢等を的確に把握し、適切に対応する体制の一層の強化を図ってまいります。
2)市場環境
当社グループは、顧客にとって付加価値の高い商品開発や提案活動を進めておりますが、事業を展開する市場は景気変動や顧客の購買チャネルの変化等の影響を受けており、分散化やデジタル化の潮流の中にあって、競争はますます激しさを増していることから、当社グループの優位性の維持又は獲得が滞り、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
これに対し、当社グループは、市場環境の変化に対応した事業体制の整備を図ってまいります。
また、当社グループにおいては、原材料の調達から開発、生産、販売、物流、納品施工までを含めたサプライチェーン全体の最適化が競争力確保のための重要な要素となっておりますが、近年特にドライバー不足による輸送能力の低下や働き手不足による工期の遅延が懸念されております。この影響により当社サービスの品質が低下し、競争力の低下を招いた場合、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
これに対し当社グループは、ますます激化する競争環境に係るリスクをしっかりと認識する一方で、それらのリスクをむしろチャンスと捉え、前例に固執することなく常に顧客満足を高めながら、より長期目線での経営を推進することによって、さらなる成長に向けて取り組んでおります。
また、物流業界や建設業界における働き方改革の推進等の社会課題への解決に向けては、事業の持続性の確保においても避けて通れない課題として認識し、物流現場においては、商品のトラックへのパレット積み化やドライバーの入退場時間管理システムの導入、建設現場においては、現場状況写真や図面等を現場とオフィス間でリアルに共有可能なツールの導入等の業務DX化により、負荷の軽減と事業の維持・成長の両立を図っております。
3)有価証券の時価変動
当社グループは、投資有価証券を保有しております。金融市場等の変動により投資有価証券の時価が悪化し、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
これに対し当社グループは、投資有価証券の四半期ごとの時価評価以外に、定期的な検証を行い、売却や購入の検討をしております。特に政策保有株式については、個別銘柄ごとに定量的及び定性的な観点を踏まえた検証結果を取締役会に報告し、保有の意義が乏しいと判断される銘柄については、引き続き売却又は縮減を検討しております。
(2)事業運営に関連するリスク
当社グループを取り巻く事業環境は急激に変化してきており、また、当社グループでは持続的な成長を目指して、既存事業強化と新規事業への参入による成長と、M&Aによるインオーガニックな成長を図っておりますが、このような事業環境の変化を受けて、当初想定していなかった組織内外の環境の変化や非定型的な取引等が生じる場合があります。既存の内部統制がこのような状況には、必ずしも対応しない場合があり、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
これに対し、当社グループでは内部統制強化の一環として、業務プロセスの可視化、標準化及び適正化を図ることで、業務の有効性と効率化を高めてまいります。
1)法規制の遵守
当社グループは、商品の品質、取引関連、環境、労務、安全衛生、会計基準や税務など様々な法規制の適用を受けており、これら法規制等への違反が発見又は認定された場合には、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
販売部門は業績目標達成のプレッシャーを感じる可能性があるほか、一部の事業においては、顧客ニーズにあわせて納入物品や施工内容が随時変更され、売上計上時期や金額、外部パートナーへの発注内容や金額が当初契約時から変更となることが多いことから、意図的な売上計上の前倒しや架空売上の計上、不正取引がなされるリスクが存在します。また、当社グループは製造委託、工事発注を含め外部パートナーとの取引が多数ありますが、特定の人物が同一業務を長期間担当する場合には、外部パートナーとの取引関係が歪められ、不正取引を誘発するリスクがあります。なお、当社の連結子会社でインド上場会社であるコクヨカムリンリミテッドの一工場において、会計上計上されている半製品在庫金額が過大となっている事実が判明しています。
また、現行の法規制の変更や新たな法規制、今後の事業のグローバル化、事業領域の拡大により、遵守すべき法規制が追加された場合には、その対応のための投資や費用が必要になるなど、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
これに対し当社グループは、法令及び社内規則の遵守はもちろん、高い倫理観を持って誠実に行動することをコクヨグループ行動基準において明確にしており、誠実性に対する経営層からの継続的なメッセージ発信や動画視聴をはじめとする教育・研修による啓発活動及び自身の行動の振り返りを通じ、その遵守に努めております。また、法規制の改廃制定などに対して、その対応及び遵守状況の定期的な確認により、法令遵守を図っております。また、談合等の反競争的行為、贈賄の防止や反社会的勢力の排除等については、国内・海外子会社に対して定期的に教育・啓発活動を行っております。コンプライアンス推進体制としては、代表執行役社長の諮問機関である「リスク委員会」を設置して全社的な推進状況の把握を行っております。また、「J-SOX委員会」により財務報告に係る内部統制の評価及びモニタリングを行っております。
2)品質保証
当社グループの製品において、想定が難しい多様な環境での製品の使用などにより、リコールが発生する可能性があります。その結果、当社グループの経営成績及び財政状態、さらに当社グループの社会的評価に悪影響を及ぼす可能性があります。
これに対し当社グループは国際規格であるISO9001に基づいた品質マネジメントシステムを構築し、それに従った製品及びサービスの設計・開発や製造及びサービス提供の管理を行い、品質チェック体制の整備を図り、品質監査を行うなど、製品・サービスの企画・開発からアフターサービスに至るまでバリューチェーン全体で品質の向上に努めております。リコールが発生した場合のリコール費用及び製造物責任賠償については、保険に加入しておりますが、損失額を全て賄える保証はなく、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
3)購買調達及び環境への配慮
当社グループが主に使用する原材料は原紙、樹脂、鋼材等であり、これらは国内外の調達先から購入しております。当社が調達先から購入する原材料や仕入商品の価格は、世界的な需給動向や為替変動による影響を受けており、需給動向や為替レートの変動が長期に及んだ場合は、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。また、ESG観点に基づく社会的要請により、サプライチェーン上の人権状況のチェックや環境への配慮について、より高度な対応が求められており、調達先に対応の不備があれば、原材料の調達停止による当社グループの経営成績及び財政状態への影響だけでなく、社会的評価に悪影響を及ぼす可能性もあります。
これに対し当社グループは需給動向や為替レートの変動に関しては、短期的には海外調達先との外貨建取引の一部について為替予約を行うとともに、中期的には原材料の現地調達比率の適正化や調達先の複数化などにより、需給動向や為替レートの変動リスクの低減に取り組んでおります。また、原材料や仕入商品の調達に関しては、調達先との信頼関係を構築し相互発展を目指すために、財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準の改定、また、サステナビリティ等の非財務情報に係る開示の進展やCOSO(Committee of Sponsoring Organizations of the Treadway Commission)報告書の改訂を踏まえ、「コクヨグループサステナブル調達方針」及び「コクヨグループサステナブル調達ガイドライン」にも内部統制の整備について明確化し、人権尊重や環境保全などの社会的責任を果たし、社会の発展に寄与することに努めております。その他にも「気候危機への対応」「循環型社会への貢献」「自然共生社会への貢献」を当社グループにおける重要な環境課題と特定し、それぞれの課題に対し2030年チャレンジ目標を設定しております。これらを含むサステナブル関連活動については全執行役員が参加する「サステナブル経営会議」にて定期的に議論が行われ、活動における進捗報告やリスクを確認しながら、推進を図っております。
4)人材及び労務
当社グループは、持続的な成長を実現するために、多様な人材の活躍が重要な経営戦略の一つであると認識し、その採用・育成に努めております。しかしながら、日本国内の労働市場における獲得競争は激化しており、事業の維持及び成長において必要な人材の獲得・育成を継続的に推進していくことができない場合は、当社グループの将来の成長が阻害される可能性があります。
また、労働環境の維持・向上が経営戦略に重要な影響を及ぼすと認識し、多様性の尊重と、働きやすい職場環境の維持・向上に努めております。しかしながら、各施策が計画通りに進捗せず、労働災害や健康被害、ハラスメント等が発生した場合には、業務パフォーマンスの悪化や労災補償、ブランド価値の毀損が発生し、当社グループの経営成績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。
これに対し当社グループでは、人材マネジメントポリシーを策定し、従業員のキャリア・能力発揮のために会社として大切にする思想とアクションを宣言しております。そこでは、「人材を社会の財産と捉え、一人ひとりの可能性に伴走しながら、事業成長と社会に貢献できる人材を輩出する」ことを経営陣・従業員全員の共通認識としております。このポリシーに基づき、全事業部門で「人材育成会議」を開催し、一人ひとりのキャリア・ポテンシャルについて役職者が複眼で討議することを開始するとともに、OJTだけではない育成のための人材育成機関「コクヨアカデミア」の設置等の取り組みにより人材育成への投資を加速させております。
また、カスタマーハラスメントやSOGIハラスメント項目を加えたハラスメント研修や、障がい者の安全な職場環境整備のための介護福祉士事務所の健康管理室設置等、ダイバーシティ&インクルージョンの推進に取り組んでおります。
また、安心・安全で快適な職場づくりや災害時の安全対策などは、社員が生き生きと働き、能力を発揮するための基盤であると考え、安全衛生のグループ統括機能である「コクヨグループ中央安全衛生委員会」が中心となり、各事業所の安全衛生委員会を結び、社員と活発な意見交換をしながら、国内・海外共通のグローバル安全基準マニュアル策定に取り組んでまいります。併せて、「グローバルH&C推進室」により、グループ各社の人材採用・定着に関わる課題解決の施策について横串での共有と解決支援に取り組んでおります。一方、設備の保全に関しては、築年数が古い施設から順に、事業戦略との整合を取りながら大規模修繕・移転・改築等の対処を進めることで、予防に努めております。その他にも、全社を挙げて残業時間の短縮に取り組むことで、従業員の健康への配慮とキャリア形成のための可処分時間の捻出に向けた施策を推進しております。
また、職場内では相談・解決し難い企業倫理・コンプライアンス違反について通報できる窓口として「コクヨグループホットライン」を設置しております。日本国内においては外部の専門会社に受付窓口を委託することで通報者保護を高めるとともに、2024年6月からはお取引先様にも利用範囲を拡大し、健全な関係構築と相互発展を図っており、海外拠点のコクヨグループ社員は当社内に設置した受付窓口へ通報できることとしております。なお、当年度における「コクヨグループホットライン」への内部通報件数は25件であります。
5)ITリスク
当社グループは、事業上の機密情報や事業の過程で入手した顧客情報や個人情報を保有しております。それらの情報に関して、当社グループの想定を超えるウィルス感染やサイバー攻撃等により、重要データの破壊、改ざん、流出、システム停止等を引き起こす可能性があり、その脅威は年々高まっております。また、在宅やリモートワークなど多様な働き方により、影響の範囲は大きくなっております。その結果、これらが発生した場合、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
また、事業内容の変化拡大に伴う現場での実業務と当社グループで運用する基幹システムのカバー範囲の乖離拡大による業務生産性や内部統制への影響が発生した場合、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
これに対し当社グループは、高度化する社外からの脅威に備え、脆弱性診断を実施しセキュリティ強化に努めると同時に、ウィルス感染やサイバー攻撃によるシステム障害への検知及び防御の強化、定期的なバックアップの取得等の対策を行っております。また、サイバー攻撃等による情報セキュリティインシデントが発生した際に被害を最小化することを目的にCSIRT(Computer Security Incident Response Team)を構築しており、有効に機能しております。
一方で、「リスク委員会」の下部組織である「ITリスク分科会」において、顧客情報や個人情報を適切に管理するために、情報の取扱いに関するルールを整備し、従業員に対してe-ラーニングによる情報セキュリティ意識の啓発、委託先や取引先を含む関係者への教育・啓発活動の推進に加え、個人データの取扱いの定期点検と不要なデータの削除など、安全管理措置を講じております。
また、基幹システムの導入から相応の期間が経過しており、また成長に伴い事業内容と業務プロセスが変化しており、業務プロセスの見直しと基幹システムの刷新を図ってまいります。
6)企業に対する出資等
当社グループは、持続的に企業価値を向上させていくために企業に対するM&Aや出資等を行っております。第4次中期経営計画において、M&Aを含む約700億円の成長投資(M&Aは案件次第で一層の投資も視野に入れております。)を計画しており、現在、インド、オーストラリア、ASEAN、日本等の地域におけるファニチャー、ステーショナリーの事業のM&Aの検討等を行っております。その実施にあたっては、「投融資審議会」において事前に対象企業の財務内容や契約内容等の審査を行い、リスクと期待リターンのバランスを検討した上で決定しております。また、出資後は利益計画等の達成状況や、資産価値についての定期的なモニタリングを実施しております。しかしながら、事業環境の変化等により、当初想定していた成果が得られないと判断された場合には、有形固定資産やのれん等の無形固定資産、投資有価証券の減損損失等を認識することにより、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
これに対し当社グループは、損失の発生リスクを低減するために、外部アドバイザーからの知見も取り入れながら、投資案件の審査プロセスやモニタリングプロセスを運用し、その継続的な改善に取り組んでおります。また、投資推進に関連する組織へのM&Aや出資に係る知見の蓄積、及び一般社員への教育・啓発活動を通じて、投資に係る能力の向上に努めております。
7)不動産資産の有効活用
当社グループは、不動産資産を保有しておりますが、事業環境の変化により資産価値が低下し、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
これに対し当社グループは、非事業資産の売却検討等、不動産、ネットキャッシュの効率運用に取り組んでおります。
また、当社グループは、長期視点でサステナブルな経営に舵を切るために策定した「長期ビジョンCCC2030」の実現に向け、2025年度より新たな第4次中期経営計画「Unite for Growth 2027」をスタートさせております。第4次中期経営計画では、「森林経営モデル」のアップデートのもと、「ワクワク価値創造サイクル」の強みを活かした体験価値提供や事業成長の再現性を高める「経営基盤強化」により、事業領域拡張や海外への拡張を通じた事業価値向上及び企業価値向上を実現することを想定しております。その具体的な施策のひとつとして、本社移転を行う事を決定し、働きやすい職場環境作りや多様なステークホルダーとのコミュニケーションの活性化により、当社らしいクリエイティビティの発揮に取り組んでまいります。尚、本社移転に伴い空室となる現本社土地及び建屋の資産につきましては、売却も含めてその活用方針について継続検討してまいります。
(3)その他リスク
1)自然災害、感染症等
当社グループは、国内外に事業所や工場を有しております。近年の気候変動に伴う自然災害の大規模化や、これまでに類を見ない感染症の発生などによる想定を超える規模の被害や、広域での社会インフラの停止なども考えられます。自然災害や感染症などが発生した場合のリスク全てを回避することは困難であるため、これらが発生した場合、事業活動の一部停止や縮小など、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
これに対し当社グループは、このような自然災害や感染症などの発生に備え、事業の継続や早期復旧を図るために必要な対策・手順について計画を立て、危機管理の徹底に取り組んでおります。また、計画内容は継続的に精査・見直しを行い、その実効性を担保するようにしております。自然災害については、施設・業務に安全対策を講じることで危機の事前回避と災害対策品の備蓄・保険等の付保により危機発生時における対応力の向上に努めております。感染症については、顧客と社員の安全を図りつつ、事業活動への影響を最小限にとどめるよう努めております。
当社グループは社員の安全確保のガイドラインを策定し、働く場所やコミュニケーション方法を柔軟に使い分けることで政府・社会からの要請に応えるとともに、引き続き顧客及び社員・パートナーの安心安全を第一に、社会インフラを提供する企業として事業継続との両立を目指し取り組んでおります。