HOWS DESIGN

Vol.22 INTERVIEW

「見せる清掃」を通じたコクヨの新たなインクルージョンの形

掲載日 2024.12.17

ALTはじまり。コクヨの品川にあるオフィス「THE CAMPUS」のアイコンとなる階段を笑顔で登る二人。男性は臙脂色のシャツに、カーキのオーバーオールを着用し、女性に話しかけている。ショートカットの女性は、男性のオーバーオールと同じ生地でつくられたジャケットとパンツを着用。ALT終わり。

コクヨグループでは、特例子会社であるコクヨKハート株式会社(以下、Kハート)と連携し、障がい者インクルージョンの推進を行ってきました。さらに、2023年10月からは「Kハート東京統括部」を設立。新たなインクルージョンの形を模索し、挑戦しています。

障害者雇用を中心にインクルージョンを推進するこの部門では、働く人々が自然体で活躍できる場をつくることを目指しています。障がいがある社員が清掃業務を通じて活躍し、その姿が見える形にすることで、社内外にインクルージョン推進の取り組みを発信する機会をつくっています。

ユニフォームから働き方まで、さまざまな工夫が盛り込まれたこの取り組みには、どんな想いが込められているのでしょうか。この障がい者インクルージョン推進メンバーに、東京統括部立ち上げに込めた想いとこれからの展望を伺いました。

Interviewee

  • 西林 聡(にしばやしさとし)

    コクヨKハート株式会社 代表取締役社長

  • 北 利幸(きたとしゆき)

    コクヨKハート株式会社 東京統括部

  • 八重樫 治子(やえがしはるこ)

    コクヨKハート株式会社 東京統括部

  • 成田 裕介(なりたゆうすけ)

    コクヨKハート株式会社 東京統括部

  • 江崎 舞(えさきまい)

    コクヨ株式会社 ヒューマンカルチャー本部 働き方改革室

  • 佐藤 裕美(さとうひろみ)

    コクヨ株式会社 ヒューマンカルチャー本部 総務部

「見せる清掃」を通じたインクルージョンの推進

「Kハート東京統括部」はどのように立ち上げられたのでしょうか?

西林:コクヨの5つのマテリアリティ(重点課題)の一つである「社内外のWell-being向上」に基づいた障害者雇用や働きやすい環境作りは、コクヨの事業全体の重要テーマの一つです。これまでのKハートの活動は大阪の拠点が中心でしたが、多様な人がいきいきと働ける環境を作りたいという想いから、コクヨが運営する「働く・暮らす・学ぶ」の実験場であるTHE CAMPUSという舞台を、東京の新たな活動拠点にすることにしました。それがKハート東京統括部設立の背景になります。

ALTはじまり。キラキラと光の入るコクヨのオフィス。藍色のジャケットにブラックのシャツを着用した西林さんが、話し手の方を見つめながら優しい笑顔で語っている。ALT終わり。

西林:東京統括部の設立準備は2023年の5月からスタートし、約3か月の構想を経て、役員からの承認と支援を受けて10月に本格始動しました。総務部の強力な推進力と役員の大きな後押しがあり、スピード感を持って計画を進めることができました。

目標として、3年後にはTHE CAMPUSの清掃業務が私たちKハートのメンバーのみで担われることを目標に掲げ、さらに一体感のある職場づくりを目指しています。

東京統括部の責任者である北さんは、この取り組みをどのように捉えていますか?
ALTはじまり。オフホワイトに明るいブルーのストライプの襟付きシャツを着る北さん。横長のメガネをかけ、おでこと目の横に三本ずつシワがある。北さんがくしゃっとした笑顔で語る時、そのシワが優しく深くなる。ALT終わり。

北:私は東京統括部の責任者として、総務部からKハートへ出向したのですが、私が来たときには既にチームの立ち上げから3年間の計画が立てられていました。「定年までちょうど3年、これまでと全く違う分野でチャレンジするのもいいかな」と思いました(笑)

東京統括部の立ち上げは、障害者雇用を軸に新しい職場環境を築き上げるための重要な第一歩であり、今後1年間で東京統括部を本格的に軌道に乗せることを目指しています。来年までにさらに障がいがあるスタッフの採用を増やし、チームを拡充していきます。

ただ、THE CAMPUSでの取り組みに関しては、本当のゼロからのスタートでした(笑)東京地区での障がい者採用も初めてだったので、特別支援学校や就労移行支援及びハローワークとの連携を開拓し、ノウハウを持っているKハートの大阪メンバーにサポート頂きながら採用ルートや支援体制を構築してきました。

コクヨの社員が働く場を実際に見学ができる「ライブオフィス」とのつながり

西林:現場にいるスタッフがどのように働くのかが「見える」ことで、コクヨの実験・実践のプロセスや成果をお客様に体感いただける「ライブオフィス」という仕組みがあります。今回の障害者雇用やKハート東京統括部の開始は、ライブオフィスとしての価値をさらに高めていると思います。

ALTはじまり。コクヨKハートに勤め、清掃を担当する2人がオフィスで座って話している。ユニフォームだと言われなければオシャレにこだわった人なのかな?と勘違いするほどのカジュアルスタイルのユニフォームです。ALT終わり。

北:一般的に清掃業務は、お客様が来場される前の時間で終わらせるよう早朝勤務になりますが、私たちは障がいがある人が無理なく働けるように、昼間のシフトへと調整していこうと考えています。今後、始業後でも支障のない清掃業務は日中にシフトさせ、皆さんに清掃作業を目にしてもらう機会を増やし、「ライブオフィス」の一部として自然に馴染む清掃のスタイルを実現していきたいです。

この新しい「見せる清掃」は、単なる業務以上の存在価値を生み出し、清掃スタッフが業務の姿を「見せる」ことに誇りを感じてもらいたい。そうした思いから、ユニフォーム刷新もこれを機に行いました!

誇りと一体感を生む新しいユニフォーム

空間が変われば服も変わり、働く人の意識も変わる

江崎:ユニフォームの制作は、清掃スタッフにも他の社員と同じくらい誇りを持って働いてもらいたいという思いからスタートしています。コクヨのデザインパートナーである「SOLIT」とのコラボレーションによって生まれたのですが、デザインの際、現在、清掃業務のコンサルティング及び現場のオペレーションを委託している東京海上日動ファシリティーサービス株式会社さんの清掃現場を視察し、実際の業務環境を確認したうえで、動きやすさや快適さを追求していったのを覚えています。

ALTはじまり。真っ白の壁紙のコクヨのオフィス。揺れる透明なピアスをつけた黒髪ボブヘアーの江崎さん。白にグリーンのボーダーシャツを着て、優しい笑顔で話している。ALT終わり。

江崎:THE CAMPUSらしさを考えたときに、今回のユニフォームは「ユニフォームっぽさをなくしたい」という共通認識は、ユニフォームの企画開発に携わったみんなの中にありましたね。

佐藤:そうですね、「ユニフォーム然としているものではないほうがいい」というのは全員が思っていたことだと思います。

江崎:THE CAMPUSができたとき、社員の服装がいわゆるビジネスパーソンっぽい服装から、自分らしさを出した服装にガラッと変わったんです。「空間が変われば服も変わり、働く人の意識も変わる」という体験は非常に強烈だったので、その成功体験から今回もユニフォームの重要性は感じていました。
Kハート東京統括部のみなさんに、いわゆる作業服のようなユニフォームを着てもらうには違和感がありましたが、清掃業務を行うという職業柄ユニフォームは必要だったので、ファッション性のあるユニフォームで自分たちらしさを出せるようにみんなでアイデアを出し合い、サンプルの試着を重ねて現在の形になりました。

ユニフォームがもたらす変化

新しいユニフォームは、どのような反響がありましたか?

北:新しいユニフォームになってから、特に女性社員から「かわいいですね」という声をかけられる機会が増えたと聞いています。

佐藤:そうなんです!「清掃されている方に初めて注目した」という声もありました。ただの景色の一部ではなく“人”として注目されるようになっているのだと思います。他にも、「初めて挨拶を交わした」という社員も少なくありません。

ALTはじまり。カーキのワンピースを着る佐藤さん。襟元はVネックになっていて、茶色のボブヘアーが優しく揺れる。くしゃっとした笑顔がとても素敵。ALT終わり。

成田:新しいユニフォームを着用して清掃業務を行う中で、以前よりも多くの社員に声をかけてもらうようになったことが、純粋にとても嬉しいです。「いつも綺麗にしていただきありがとうございます」という言葉は、日々の仕事において何よりのやりがいになっています。

江崎:実際に新しいユニフォームを着用したKハートの清掃スタッフが、他の社員と同じくらい自分の仕事に誇りを持って働いている姿を見て、「本当にこのユニフォームを作って良かった!」と感じます!

八重樫:私はKハートにおいて障がいがあるスタッフの指導員として働いていますが、ユニフォームへの注目をきっかけに、指導員がどのように彼ら・彼女らと関わり合いながら働いているかも見てもらうことで、今後、Kハートのみならずコクヨグループ全体として障害者雇用を進め、多様性のある組織になっていく過程でのヒントとなったら良いなと思っています。

西林:新しいユニフォームは、清掃スタッフが自分の役割に誇りを持って業務に取り組むことを後押ししていますが、その影響はスタッフ個人にとどまりません。清掃スタッフの働く姿が社内で自然に見えることで、他の社員との交流も増え、互いに意識する機会が増えています。これにより、部門や役職に関係なく「同じ空間で働く仲間」としてお互いを認識しやすくなり、コクヨ社内全体でインクルージョンが浸透していくきっかけになっています。

江崎:ユニフォームの影響がこんなに大きいことに、本当に驚きました。コクヨ、Kハートという所属や障がいの枠を超えて社員の間で会話が生まれ、コクヨ社全体の一体感がさらに強まっていると感じます!

今後の展望、広がる可能性

清掃スタッフのお二人がユニフォームを通じて実現したい思いなどはありますか?

成田:THE CAMPUSにお越しいただいたお客様には、ライブオフィスを見ていただくことに併せて、私たちの働く姿やユニフォームそのものにもぜひ注目していただきたいです。また、Kハートという会社のこと、新しいユニフォームのデザイン、SOLITさんとの共同制作などについてもお伝えできる機会があれば良いなと思っています。そして、例えば、「うちの会社もコクヨに負けないような素敵なユニフォームを作ろう」などと思っていただけるきっかけになることができたら嬉しいです。

八重樫:THE CAMPUSを象徴するような素敵なユニフォームができましたので、実際の清掃業務の部分においてもTHE CAMPUSらしいインクルージョンのあり方を模索していくことが私たちKハートの大きな仕事であると感じています。障がいがあるスタッフは自分たちが受け入れられていることを感じて、より誇りをもって働けるようになることが何より大切であり、ここTHE CAMPUSにおいて今後もたくさんのコミュニケーションが生まれていくことを楽しみにしています。

最後に、今後の目標を教えてください。

北:まずは1年かけて清掃チームをしっかりと育成し、その後は他の業務にも挑戦していきたいです。コクヨの事業のさまざまな場面で活躍するチームを育てていきたいと思っています!

西林:東京統括部での取り組みを通じて、社内外でインクルージョンへの理解がさらに進むことを願っています。これからは、事務作業など清掃以外の業務も請け負うことで、Kハートのスタッフが清掃以外の職務にも挑戦できるようにし、多様なスキルを持った障がいのある人の活躍の場を増やしたいです。これらの取り組みによって、コクヨ全体での障害者雇用の幅が広がると確信しています!

ALTはじまり。話し手となった4人と、今回ユニフォームを一緒につくったSOLIT/代表美咲が円になって話している様子。席に机が一体になった椅子で自由に動けるため、それぞれが話す動きに合わせて揺れ動いているよう。賑やかな会話と、全員が笑顔で微笑み合うことで、部屋の空気が一段と明るく感じる。ALT終わり。

取材日:2024.10.22
取材:田中美咲
執筆:和田菜摘
校正:山中散歩・田中美咲
撮影:山中散歩
編集:HOWS DESIGN チーム

シェアする

  • X
  • facebook
もどる
ページトップへ