紙から紙へ!持続的なノートがつなぐ未来の文房具、ついに完成
取材日 2024.2.16
今回、伺った会社はこちら
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コクヨ工業滋賀
設立:1988年(昭和63年)10月1日
従業員数:155名 (2023年7月1日現在)
都道府県:滋賀県愛知郡愛荘町
特徴:コクヨグループの一員としてキャンパスノートなどの紙製品製造を行うとともに、工場ブランドコピー用紙KPS用紙や、琵琶湖・淀川水系のヨシを使ったReEDEN(リエデン)商品の企画開発販売をしている。
今回の記事のポイント
- 全国の小学校から集められた使用済みノートが新しいノートの表紙に生まれ変わってついに誕生! その製造工程を紹介。
- 完全に同じ品質のノートから、それぞれの表情のあるノートに。コクヨのものづくりの価値観も変えていく挑戦。
- 「おかえり」「いってらっしゃい」と言えるノートで、水平リサイクルが当たり前な未来をつくりたい。
活動紹介
今回はコクヨとコクヨグループのカウネットが取り組む体験型環境学習プログラム「つなげるーぱ!」の一連の活動の最後の工程を担う、ノートを製造するコクヨ工業滋賀を訪れ、その製造過程を取材し、携わる社員の皆さんの想いを聞いてきました。
全国の小学生たちがノートを回収する体験を通じて学ぶ
2023年10月にスタートした、全国の子どもたちと資源をより良く循環させる事を通じて地球を守る取組み「つなげるーぱ!」。
スタートから約4か月で全国77校、約2万人の参加お申込みをいただき、約1.4万冊(1.9トン)のノートが集まりました。
全国の小学校で回収していただいたノートは、古紙回収センターに集まり、分別の確認、計量をおこないます。
児童の皆さんが、リサイクルできないものが混ざらないよう気を付けてくださったおかげで、プラスチックの表紙のノートや、金属リングつきのノートなどがほとんど混ざっていない状態で集まりました。
その後、ノートは製紙会社へ運ばれ、再び紙となりました。大きなパルパーで溶かされどろどろになった紙のもとを、薄くのばして乾燥させていきます。最後にカットし、ノートの表紙に適した厚みの紙が完成しました。
使い終わったノートが再生されて新しいノートの顔に
コクヨ工業滋賀では、たくさんの種類のキャンパスノートをはじめ、自社オリジナルブランド『ReEDEN(リエデン)シリーズ』、ルーズリーフや伝票などが製造されています。その中にキャンパスノート(つなげるーぱ!)の製造ラインもありました。
ラインには、たくさんの表紙が積み上げられており、罫線が引かれた用紙と組み合わさって次々とノートが組み上がっていました。
時折見える表紙は、再生紙ならではの紙のかけらが所々に現れており、それぞれ違った顔を見せてくれます。そんな違いもつなげるーぱ!のノートならではの楽しみになってくれたらと思いながら、さまざまな表情のノートが生まれていくのを見届けました。
出来上がったノートはそのまま10冊ごとにまとめられて包装されていき、さらに段ボールへと梱包されるまで一気に進んでいきます。
このノートが子ども達のもとへ無事に届き、喜んでもらえる事、そして次にものを選んだり、手放す時にどんな選択をするのかを考えるきっかけとなる事を願っています。
インタビュー
答えてくれた人
答えてくれた人
株式会社コクヨ工業滋賀
開発グループ
グループリーダー次長
岡田佳美さん
株式会社カウネット
カウネットSDGsTFリーダー
嶋﨑紘平さん
コクヨ株式会社
グローバルステーショナリー事業部D2C戦略本部CXデザイン部
尾崎圭以子さん
まずはノートの作り手として今回の取り組みへの想いを聞かせてください
岡田:これまではノートを「いってらっしゃい」という気持ちで送り出してきただけでしたが、それが「おかえり」と言えるようになったことに感動しています。従来のリサイクルでは、段ボールやトイレットペーパーになっていましたが、『ノートをもう一度ノートにする』ことができるようになり、貴重な資源を有効利用して製品を作れるということに嬉しさを感じます。このプロジェクトは、SDGs、持続的な社会を作る文房具の新しいものづくりの仕組みを作っているので、プロジェクトの一員であることを誇りに思います。
岡田:つなげるーぱ!のノートがついに完成したので、子どもたちに渡しに行くのに今からワクワクしています。出張授業をさせていただいた子どもたちは「未来をより良くするために、どうやって活動を広げようか」と、私達の取り組みに対して真摯に考えて動いてくれました。活動の様子を見ていて、「ノート」という勉強ツールが、環境のことを学ぶ学習ツールとして、別の位置付けになったと実感しています。
つなげるーぱ!の資源をつなぐルート作りについて大変だった点をお聞かせください
嶋﨑:これまでも企業から資源を集める活動はしていたのですが、全国の学校で資源を集めるという形はありませんでした。カウネットの通販サイトで募集をかけてノートを回収するというスキームですが、これは古紙回収センターや製紙会社といったパートナー企業の方々が、このプログラムに賛同してくれたことで実現したことだと思います。コクヨやカウネットが積み上げてきた関係性や歴史と、小学校の生徒さんたちの笑顔、すべてが繋がっています。これからどんどんパートナーも増やしていきたいと考えています。
そして、学校を対象としたプログラムにしたことで、環境学習という付加価値がついたと感じています。これまでのリサイクルの輪は水平ではなくダウンサイクルしていたんですが、今回のサイクルでは途切れることなく循環がずっと続くところが素敵だと思います。ものづくりって大体縦割りなんですが、キャンパスノート(つなげるーぱ!)は、作り手も使い手も循環の輪に入っていることが素晴らしいと思います。なのでたくさんの学校に今後参加してもらえるように、これからさらに学校に寄り添ったサービスに内容をブラッシュアップしていきたいです。
つなげるーぱ!ノートにこめた想いを教えてください
尾崎:今回のノートでは、回収したノートをリサイクルして表紙に使っているのですが、過度な印刷をせず再生紙を活かした表紙にしました。また、回収したノートを含む古紙パルプの紙片が表紙のところどころに混ざっていて、同じ表情のものが1つもないんです。これまでの製品の多くは完全に同じであることが求められますが、完全に統一されたものではなく、それぞれ違いがあることを前向きな価値観として捉える機会になりました。これをコクヨのメインブランドであるキャンパスノートで制作できたというのも個人的にとても嬉しいです。
尾崎:こだわったポイントとしては、表紙のイラストです。マレーバクやムササビがプリントされているんですが、これは絶滅危惧種の動物たちです。裏表紙に「なぜ絶滅危惧種に指定されたのか」の解説もつけており、より学びにつながるように考えました。このノートを手にした人が、様々なものに「捨てない」という方法があることを知ってもらえるきっかけになれば嬉しいです。
最後に皆さんが描く未来を聞かせてください
尾崎:ノートって机の上に当たり前にあって、勉強の頑張りなど想いのつまったツールだと思っています。この当たり前が世代を超えてずっと繋がっていくために、ノートがより資源循環していけるように変わっていきたいです。そして、その資源循環されたノートが、子どもたちの思い出の傍らにいる存在になればいいなと思います。
岡田:今はリサイクルした紙を表紙に使っていますが、ゆくゆくは中の紙も回収したノートで作れるようになればいいですね。そのために、使用済みノートをポスティングやドライブスルーで回収できるようにするなど、気軽に回収しやすい環境づくりに取り組んでいきたいです。スタートしたばかりだからこそ、特別なものとして今は活動していますが、これが当たり前になるような社会を思い描いています。
嶋﨑:今は小学校だけですが、中学高校大学まで回収の輪を広げていきたいですね。切手とかペットボトル回収は当たり前になっているので、同じようにノートもリサイクルする、回収するというのが当たり前の社会を目指していきたいです。
今回のプロジェクトに関わって、ノートが持っている可能性がどんどん広がってきていると感じました。いままでは「道具」だったノートがあらゆるコトにつながっていく。このつながりに参加しているのがわかる、ということが重要なんだと思います。日本のいろんな企業が手を組めば、どんなものでもリサイクルできる未来が来るんじゃないかと思っています。
ノートが描く、これからのノートの未来
さまざまな”つながり”によって完成した『キャンパスノート(つなげるーぱ!)』が、新たなつながりを生み出していく。そして、人も資源も関係なく輪の一部になって循環する。
このノートにそんな未来を描いていくのは、紛れもない私たちなんだと改めて教わったような気持ちになりました。
執筆:山瀬 鷹衡
編集:中西 須瑞化・田中 美咲
撮影:林颯太