KOKUYO DESIGN AWARD 2014
世界各国から1,442点(国内:1,144点、海外:298点)の作品が集まりました。
その中から1次審査を通過した12点を対象とし10月29日に最終審査が行われ、
グランプリ1点と優秀賞4点が決定しました。
その数時間後には受賞作品の発表と審査員によるトークショーが行われました。
グランプリ
作者 荻下 直樹/大石 紘一郎
作者コメント
線に沿って紙を切るとき、はさみの刃に隠れて切りたい線が見えないことがあります。“すける はさみ”は、刃を透明にすることで、僅かなストレスも払拭する道具へと進化させました。 持ち手部も含め一つの透明材にすることで、素材の美しさを生かしつつ、生産性、リサイクル性にも優れたプロダクトとなります。 機能と美しさを見つめ直した、はさみのNEXT QUARITYです。
審査員講評
「刃から持ち手まで透明なひとつの素材でできた上質なはさみ」という考え方に、大きな夢を感じます。水滴をイメージした点も魅力的。
コンセプトはどの作品も秀逸だった中、透明セラミックスで作るという、従来のはさみでは考えられなかった素材のクオリティを上げるプランで他を圧倒していた。グランプリにふさわしいデザインだ。
佐藤 可士和
道具というのは人間の体の一部で、さらにそこから拡張していくものだと思う。極端な表現をすれば、チョキの手をはさみにして切りたいということかもしれない。このハサミはその意識を具現化するかのようだ。「透明」ではなく「すける」ところに何かを見ようとしている。
鈴木 康広
プロトタイプの完成度が高く、握りやすいと実感できました。透明な姿には、人を突き放す冷たさと体に馴染む透け感があり、審査ではその後者を評価しました。切るという機能だけを残して純化されている。そして、透明セラミックスを焼き固めて作るという、僕らがまだ見たことのない素材の可能性にも期待したい。
田川 欣哉
コクヨは現在数種類のハサミを生産しており、多くのお客様にご使用いただいています。ガムテープを何十万回切っても切れ味が変わらないハサミなどのヒット商品もあります。そのなかで、さらに新しいものを追求する姿勢を評価しました。素晴らしいアイデアですが実際に製造できるかと悩みました。しかし新しい素材の提案までをしていただき、ボルテージが上がりました。非常にチャレンジしがいのあるデザインです。
コクヨ
優秀賞
作者 川口 真那子
定規にはいろいろなシーンに適したいろいろな大きさ、形があります。 永円定規はひとつで永遠に線を引くことができる定規です。 定規の長さに縛られない。 それは定規の次の可能性を広げるNEXT QUALITYです。
円形の定規を回転させながら線を引く、という行為そのものが楽しい。定規の寸法にとらわれず、自在に線を引ける点がユニーク。
日本地図を作った伊能忠敬によれば日本列島の輪郭線はおよそ地球1周分の距離になるというように、そしてメートルという単位が地球に由来しているように、僕たちは地球を測ってみたかったのではないだろうか。定規には始まりと終わりがあるけれど、線には終わりがない。それを表現するこの定規は、壮大だ。
鈴木 康広
定規はペンケースに収納できるタイプが好まれる傾向にあります。手の大きさに合わせたサイズ展開が提案されていましたが、大きさや形状にも工夫があると機能的にもより良くなるのではないでしょうか。従来の定規と肩を並べる存在になればおもしろそうです。
コクヨ
作者 河本 匠真
作者コメント
削った直後だと鉛筆の先端が「パキッ」と折れてしまいます。 そこで、書きやすい状態に削る鉛筆削りを新しいスタンダードとして提案しました。筆記用具の削り機としてだけでなく、化粧品のアイラインペンシルなどにも使える提案です。
文具だけでなく、アイラインペンシルなど化粧道具に応用できるアイデアで、広がりを感じます。コンセプトが優れていました。
「そういえば鉛筆は尖っていない方が良かった」と思わされてしまうところが凄い。デザインがあまりにも普通なので、先端のR形状がいくつも選べるなどのバリエーションを持たせるといった工夫がほしかった。そのクオリティが上がっていればグランプリに匹敵する作品になっただろう。
佐藤 可士和
経験から発想したアイデアが素晴らしいと感じました。技術的な問題さえクリアできれば実現の可能性は広がるでしょう。削り止めるのではなく、刃先を工夫して丸く削れるようにできれば、非常に個性的な商品になりそうです。現在のデザインですと形や色が他の製品と類似し過ぎているので、もっと違う外観を考えていただいていたらと思いました。
コクヨ
作者 坂井 浩秋
作者コメント
一般的な定規のように「太さがある線」ではなく、幾何学の定義でいうところの線=「太さがない線」で目盛りを表現できれば、長さを計る道具という定規の本質により近づくことができると考えました。 等間隔に並べた面と面との間に生まれる「境界線」で位置を示し、より正確な長さを計ることができる定規です。
コンセプチュアルかつ素晴らしい発想だ。問題は、精緻な目盛りが技術的に可能かどうか、そして使う人間が身体的に馴染めるかどうかだろう。デザインの提案としては地味だと思われるかもしれないが、完璧な提案であることは間違いない。
佐藤 可士和
デザイナーがカッターを使う時、線の幅のどちら側を切るか迷うことがよくあります。0.01mmのズレはデザイナーにとって致命的であり、その点を解決しようと試みたこの定規は優れています。実際には、目盛りの間を塗りつぶしているといった程度にしか手を加えていないにもかかわらず、従来の定規とは決定的にかけ離れたものにできたのは鮮やかな落としどころだ。
田川 欣哉
普段から使っているが故の着眼点であり解決策であると思います。作者の仕事に対する真摯な姿勢を伺うことができます。見た目は通常の定規と変わらず、しかし使う人が直感的にメモリの使い方が解る点も秀逸だと思いました。
コクヨ
作者 西居 洋毅
作者コメント
「まとめやすいノート」は、部分的に色分けされたエリアのあるノートです。 授業の要点をまとめたり、テストに出る重要なポイントを後から記入できるように配慮しました。 記憶したいポイントを色分けエリアにまとめ、テストの前はポイントだけを集中して読み返すなど、 学習のクオリティを向上させます。
あらゆるアイデアが試されてきたノートの提案には、具体的なプレゼンが必要だと思い知らされる完璧な内容だった。実際に世の中に出してみたら、「他にもこんな使い方がありました」と、用途が広がっていきそうな印象も受け、余白が残されたアイデアを評価した。
鈴木 康広
ノートの一部を薄く色付けするというシンプルなアイデアですが、使う者にノートの取り方の工夫を自然と促す効果があります。ミニマムな工夫で人の行為のクオリティが変化するという良い例になっていると思います。
田川 欣哉
完成度が高く、非常に美しくまとまっていると思いました。部分的にノートの色を変えているところが自然なデザインの解決方法を導き出している点を評価したいです。すぐにでも商品化できそうなアイデアだと思っています。
コクヨ
審査員総評(※審査員の肩書は審査当時のものを掲載しております)
川島 蓉子
伊藤忠ファッションシステム株式会社 ifs未来研究所所長
成熟するモノ作りの一歩先の近未来を描いてみる「NEXT QUALITY」というテーマは、簡単なように見えて難易度が高い。従来の概念を少し違う角度から眺めてみることで新しいクォリティを発見する、そんな作品が多かったように思います。製品化されたら、是非、使ってみたいと感じるものも少なくなかった。デザインとは人の発想や想像を具体的なかたちにし、使うという行為に、そして楽しむという気持ちにつなげていく仕事。今後も新しいクォリティのデザインに挑んで欲しい。
佐藤 可士和
SAMURAI代表/アートディレクター・クリエイティブディレクター
今年の受賞作品はどれも「おっ、ちょっと実際に使ってみたい」と思わせるようなものが多かった。コンセプトも非常に優れていて、言われてみればそうだよなと、頷きたくなるものばかりだ。商品化を前提としたアワードなので、それは全体的に応募作品のレベルが高いということでもあるのだが、一方で、どうしても現実的になりすぎてインパクトやスケール感、話題性といった面白みに欠けてしまうという側面も否めない。これは選ぶ側と出品する側、双方の課題だろう。実際の仕事においても、この駆け引きやバランスがもっとも難しいところである。その中でグランプリの「すける はさみ」は機能性と美しさを兼ね備えた作品となっている。商品化への過程で、ありそうでなかったまさに“切れ味のいい”すごい商品になることを期待したい。
鈴木 康広
アーティスト
「NEXT QUALITY」というテーマから連想したのは、意外性を含めた新しい価値の提案。グランプリの《すける はさみ》のもつ「透明性」は、手とハサミが限りなく近づいていったその先に、物としてのハサミが消えていく理想像をかたちにしたものだと思いました。造形的な美と使い心地のバランスを緻密に検証したモックアップ。刃物として機能することを強く期待させるプレゼンテーション。既にできたものを披露するのではなく、実現を人に強く希望させる力を温存した提案のように見えました。見た人に思わず次の段階を想像させるものこそ「NEXT QUALITY」かもしれないと気づかされたのです。文具や家具といった誰もがよく知るものを媒介にしてはじめて語れることがあると思います。コクヨデザインアワードがデザイナーに限らず、社会に潜在する次なるビジョンを探し当てた人が集う場となっていくことを期待します。
田川 欣哉
takram design engineering 代表/デザインエンジニア
「NEXT QUALITY」の「NEXT」という言葉には「まだ見ぬ」という意味も込められています。これまで見たことも無いような、それでいて高いレベルの「質」の提案を期待してテーマ設定を行いました。結果として、テーマに対して様々な切り口の素晴らしい提案が集まりました。グランプリ作品は、引き算思考からシンプルなコンセプトを抽出し、それを細部に渡ってデザインしきった純度の高い提案でした。海外からの応募が非常に増えたことも今年の特徴です。残念ながら受賞に至らなかった方も含めて、アワードに応募した全ての方々が「NEXT QUALITY」というテーマについて考えた時間とエネルギーの総量がまさに次の時代の「質」を作っていくと確信しています。
黒田 章裕
コクヨ株式会社 代表取締役社長執行役員
今回「NEXT QUALITY」というテーマに則って、モノの品質に留まらず、使う方の満足のレベルを一気に引き上げる価値を創り出すことを意識して審査しました。たいへん多くの新しい着眼点を持った作品が集まったと思っています。従来の商品に見られる不満点、使用者ですら気づかない不都合をデザインの力で解決する・・・。最終審査時も、我々にはなかなか出来ない発想や作者の深い思いをストレートにぶつけていただきました。受賞できなかった作品もありましたが、未来への「質」の提案力に強く繋げることができる作品ばかりでした。デザインの力を強く感じることができたアワードとなったと思っています。本当にありがとうございました。
最終審査/受賞作品発表/トークショー
レポートムービー
最終審査
12組のファイナリストは直前まで準備に時間を費やし、最終審査で熱い想いを込めたプレゼンテーションシートや模型を使いプレゼンします。
審査員はそれに真剣に向き合い、コンセプトメイキング、デザインの完成度を確かめながら、商品化の可能性を視野に入れた慎重な審議をしました。
受賞作品発表
グランプリに輝いたのは全てが透明のハサミ「すける はさみ」。
受賞作品の模型は会場に展示され、多くの来場者が熱心に見ていました。
受賞者へ贈られたトロフィーは審査員の田川欣也氏のディレクションです。
トークショー
前半は、テーマが「NEXT QUALITY」となったいきさつや、受賞作品の評価ポイントをご説明いただき、後半はこれからのデザイナーに求められる役割について語っていただきました。
多方面でご活躍されている審査員ならではのトークに、会場は大いに盛り上がりました。