受賞者インタビュー
佐々木 拓
「さじおたま(計量おたま)」
2005年度 優秀賞
"さじおたま"が人生を変えた!
2005年のコクヨデザインアワードのテーマは「奥行き」。"小さな入口でも奥行きのあるもの""簡単でも奥が複雑な構造になっているもの""奥深く、さまざまな使い方ができるもの"など、表層ばかりでない新しいデザインが求められました。その年に「さじおたま」という作品で優秀賞に選ばれたのが佐々木 拓さん。ここでは佐々木さんに、受賞の秘訣や受賞後に起こったことなどを聞きました。
—— 2005年、当時は何をされていましたか。
多摩美術大学の学生でした。ある日、コクヨデザインアワードが授業の課題になり、それが応募のきっかけでした。
—— "奥行き"というテーマが、どうやって"おたま"に結びついたのですか。
まず、コクヨは文具のメーカーのイメージが強かったので、はかる道具で応募しようと思いました。モノサシとかメジャーとかが浮かんだんです。はかるということに、テーマである"奥行き"を当てはめて考えていくと、"さじ加減"というものが現れてきました。中華料理をつくるとき、おたまで調味料をすくってパッとふりかける。あの行為にある"さじ加減"に、はかることの奥行きを見つけたんです。
—— さじ加減に奥行き、ですか。
そうです。数量をきちんとはかるのではなく、感覚ではかる。なのに適量だという、その勘どころのようなものに奥行きを感じたのです。
—— なるほど。"さじ加減"をカタチにしたものが、"さじおたま"。
このアイデアが浮かんだとき、イケル!と思いましたか。
イケル、と思いましたが、モデルをつくるのは大変でした。
—— 実際に造った?
造りました。当時は、作品の意図などをパネルにしたものが必須で、モデルは任意でした。でも、図面が何枚もあるより、実物のほうが説得力ある。だから造ったのですが、完成度は低かったですね(笑)。
—— モデルの完成度は低くっても、優秀賞には選ばれた!
最初、おたまの渦のところに目盛りを付けていたんです。渦を半周したら小さじ一杯、みたいな感じでわかるように。その目盛りを、出品する前に無くしました。"さじ加減"という感覚的なものをはかるのに、目盛りがあるのはヘンだからです。そういった考えや思いが、選考委員の方たちに伝わり、評価していただきました。
—— それは、うれしかったですね。
ええ、すっごく!大学のなかだけでデザインをしていた時期なので、外から評価されたのは初めてでしたから。もっと驚くのは、最近になってもまだ"さじおたま"を憶えてくれている人がいるということ。特にプロダクトデザイン系の人たちからは、コクヨデザインアワードは注目されているんですね。
—— 受賞後、なにか変化がありましたか。
そうですね、大きかったのはコクヨに入社できたことです(笑)。この賞をもらっていたから、自信をもって入社のためのプレゼンテーションができました。いまはコクヨファニチャーで家具のデザインをしていて、ちょっと前にドイツのユニバーサルデザインアワードを受賞しました。やりがいのある、楽しい毎日を過ごしています。
—— では最後に、これからコクヨデザインアワードに応募しようとしている人たちにアドバイスを。
そうですね、僕は応募するときに、"さじおたま"を実際に使っているシーンを写真に撮ってそれをメインビジュアルにしました。この作品で表現したかった"さじ加減"をはかっている瞬間。それを一枚の写真におさめました。そうすることでシズル感が伝わったのではと思っています。必要なのはモノを生むためのアイデア、そしてそれを表現して魅力的に見せるためのアイデア。じっくり考えて、世の中が驚くようなものを創造してください。