商品化された作品
儚く、美しく
〈2015 優秀賞〉
数字が一本の糸で縫われたカレンダー。糸を引っ張ると、数字がほどけて消えていきます。
一日が終わるごとにこの糸を少しずつ引っ張ることで、
儚く過ぎてゆく時に日々思いを寄せることができるカレンダーです。
〈2015 優秀賞〉
数字が一本の糸で縫われたカレンダー。糸を引っ張ると、数字がほどけて消えていきます。
一日が終わるごとにこの糸を少しずつ引っ張ることで、
儚く過ぎてゆく時に日々思いを寄せることができるカレンダーです。
作品紹介ムービー:https://youtu.be/NCDQdQDj994(YouTube)
最終審査の様子。
「美しい暮らし」をテーマに作品を募集したコクヨデザインアワード2015。優秀賞を受賞した「儚く、美しく」は、「花は散るから美しい」という日本人に宿る独特の感性の表現と、糸をほどいて数字を消していくというカレンダーの斬新なアイディアが高い評価を受けました。
最終審査で提出された模型は、作者の上田美緒さんが同級生に手伝ってもらいながら、手縫いしたもの。一次審査のプレゼンテーションシートの時点では、本当に実現できるか半信半疑だった審査員の皆さんも、最終審査で実際の模型を目の当たりにして、スムーズに糸がほどけていく様子にびっくり。皆さん夢中になって糸をほどいていたのが印象的でした。
左)直線は実現できても、数字が表現できない。 右)水に浸すとふやけてしまったり、破れてしまったりする。
そして商品化にあたっては、手縫いでは実現できた仕組みを、いかに機械化できるかがポイントになりました。
まずはじめに検討したのが、縫製後に上糸もしくは下糸を何らかの手段でなくし、糸をほどけるようにすること。上糸を攣って抜く方法や、水溶性の糸を下糸として使用し、後から水に浸して下糸を溶かす方法を検討しましたが、なかなかうまくいきませんでした。
その後アドバイスを求めて、縫製が盛んな群馬県桐生市へ。刺繍工場をまわる中で出会ったのが、上糸のみで縫う「ループ刺繍」でした。ワッペンなどの刺繍でフワフワした立体感を表現したいときなどによく使われる手法のようです。
初めて試作を目にしたときは驚きました!糸をほどくと、実にスムーズに数字が消えていったのです。今回お願いした刺繍工場も、このような依頼は初めてだったようで、「従来はほどけないように注意して縫い付けていますが、ほどけるようにしてほしいという依頼は初めてです」と笑って話されました。
試作を引っ張ったときの感触は、まさに求めていたものだった。
2ヶ月ごとに変わる色合いの繊細さ、一筆書きの数字のデザインは上田さんのこだわりが詰まっている。
加えて大事な点である「儚さ」を感じさせるデザインは、作者の上田さんと共に検討していきました。
一筆書きで表現された数字を、ループ状に折り返しながら縫っていくので、必然的に太めに縫われてしまいます。最初の試作の縫製には力強さがあったため、使用する糸の色や太さは、デザインのバランスや品質面と共に慎重に選定しました。
また、制作途中で刺繍の裏面の方が、糸が細く繊細に出ていることに気がつきました。そこで、デザインを反転させて縫製することで、本来裏面になる部分を、表面として使用しています。
コンセプトは素敵だけど、どうやって実現するの?と多くの方にご心配いただいた「儚く、美しく」。従来からある縫製方法を工夫して活用することで、ついに実現することができました。
一日の終わりに、糸をほどいて数字を消しながら、皆さんは何を想うでしょうか。暮らしの中で、静かに日々の出来事の余韻を感じる時間になってほしいと思います。