受賞者インタビュー
あら部(伊藤実里、高橋杏子、室屋華緒、山中港)
「すっきりとした単語帳」
2015年度 グランプリ
その先にどんな暮らしを提案できるか
「美しい暮らし」をテーマに開催した「コクヨデザインアワード2015」で、1659作品の頂点に輝いた「すっきりとした単語帳」。身の回りのモノがデジタルに取って代わられるなか、自分の手で書き込んで使う自分だけの単語帳は、これからもアナログであり続けるように思えます。単語帳に着目し、新たな提案につなげた「あら部」の4人。まずはユニット名の由来から聞いてみました。
―― 「あら部」の由来は?
高橋:「あら部」というのは、日常で気になって“あら”って思ったことを集めて何か新しいものを作る、部活みたいな活動です。今回の応募が2回目で、最初の応募は「NEXT QUALITY」(コクヨデザインアワード2014)のとき。今はそれぞれ仕事をしていますが、当時研究室で一緒だった4人で「あら部」を結成しました。4人とも似たようなところに興味があって「みんなで何か作れたらいいね」と話して応募することに決めました。
山中:「あら部」は深夜のテンションで付けた名前で、今回の受賞後、周りから「どうしてそんな名前にしたの?」と言われました。まさかグランプリを獲れるとは思っていなかったので、このネーミングには少しだけ後悔もあります(笑)。
―― 「すっきりとした単語帳」というアイデアが生まれた経緯は?
高橋:「美しい暮らし」という抽象的なテーマをどう解釈するかに迷って、コクヨデザインアワードのトークショーに行って、そのあと4人で話し合いました。「時間に追われている暮らしは美しくないよね」とか、あと「切った爪が床に落ちているのを踏んだ瞬間は美しくない」というのもありました(笑)。些細なことから大きなことまで、まずは考えを出して全員で共有することから考え始めました。一方で、NEXT QUALITYのときの反省点が、コンセプトを完全に決めてからモノに落とし込むのはとっても苦戦するということ。だから、今回は美しい暮らしをどう解釈するかを考えながら、同時並行で具体的なモノを作っていくことにしました。
室屋:それぞれが考えて、モノのアイデアを持ち寄って、みんなで議論しての繰り返しでした。当初は、付箋とか身の回りのモノの、いろんなアイデアが出ていました。
伊藤:その後で、客観的に考えてみようと文具店に行ってみたら、付箋コーナーにいろんなデザインの付箋がありました。その隅っこに忘れられたような感じで単語帳があって、これはデザインする隙間があるんじゃないかと考えて単語帳に至りました。
高橋:自分の経験を振り返ると、バッグの中で単語帳がばらけたり、折れたり汚れたりするのがイヤだなあと思ってて、箱にしまうときもリングが邪魔できっちりしまえない。
山中:みんなで考えているうちに、リング自体がバンドとして機能したらいいねとアイデアが固まっていきました。単語帳の紙に色を付けることで、色ごとに使い分けられて、整理しやすくなる。ネーミングの「すっきりとした単語帳」の「単語帳」は、あえて使った言葉です。ブロックのように重ねられる単語帳ということで「ワードブロック」という案もありましたが、それだと単語帳であることが伝わらない。単語帳という言葉は捨てたくないねってみんなで話しました。「すっきりとした」は、収納できる、片付けられるという物理的な意味と、あと思考をすっきりまとめられるという、美しい暮らしに結びつくような2つの意味で使っています。
―― アイデアをどうやってカタチにしましたか?
室屋:頭で考えているアイデアと、手元にある実物とでは全然違います。立体物がないと使い勝手の良し悪しも判断できないので、単語帳になる前段階も含めたくさん試作しました。研究室の方針がまさにそうでしたから。
高橋:すっきりとした単語帳にはレーザーカッターで木を切って作った試作があって、厚みと、ゴムを引っ掛けるくぼみの形の検証もしましたね。引っかかり具合や取り外しやすさは、使うときに必ず使う機能で、一番気を使ったところ。留め具は、アクセサリーショップに行ったり、いろんなパーツを試した部分で、実は一番苦戦したかも。
伊藤:表紙からゴムが出ないようにとか、細かいところを少しずつ変えて完成まで持って行きました。
山中:使い勝手が悪いために、もともとのコンセプトが伝わらなくなるのは絶対に避けたいと思っていました。こういう使いにくさって、そもそも美しくないということでもあると考えて。ある程度カタチになった段階で、家族や研究室の友達にプレゼンして、客観的な意見をもらいました。試作を含めて、伝わることにつながるものは全部クオリティを上げました。
―― 1次審査のプレゼンテーションシートにはどんな工夫をしましたか?
山中:「あら部」のグラフィックデザインは私が担当していますが、プレゼンテーションシートにはテンプレートがあって、それを守りながらできるだけ作品を印象付けたいと思っていました。審査員の方々が何千というプレゼンテーションシートに目を通していく中で、飽きさせないというか、「また同じのが来た」ってならないように。テンプレートに納めながら、できるだけその枠からはみ出そうと考えました。一次選考は模型を見てもらえないので、プレゼンテーションシートではゴムの色を赤にして強調しました。こうした考え方は、前回の失敗を生かした点です。前回は、自分たちが作りたいものを押し出しすぎて失敗したので、今回はどう伝わるかをかなり考えました。
伊藤:写真は、アイテム単体よりも使っている光景を見せるほうが大事だと思って、手を入れたカットを使いました。最終審査のプレゼンに使った動画も、同じ考え方です。
高橋:練習を何度もして、動画を使ったプレゼンは直前まで練り続けました。やれることはやったかなという感じで、プレゼンに臨みました。
―― これからコクヨデザインアワードに応募しようと考えている方々にアドバイスをお願いします
高橋:今回は、作りながら考え続けたのが良かったと思います。テーマの解釈がまとまってなくても、考えながら作ったものにテーマを結びつけることができる。最終的に、美しい暮らしを「いつまでも学び続ける」ことと解釈しました。最初に4人で見に行ったトークショーで「その先の暮らし」という言葉が何度か出てたので、ただモノを提案するだけじゃダメで、その先にどんな暮らしを提案できるかを考え続けました。なので、審査員の方からいただいた「道具がライフスタイルを変える、ということを実感できた」という言葉はとても嬉しかったです。チームで参加すると、発想の種が4人分あるのが強みですね。毎回持ち寄って出た言葉から、アイデアの尻尾を捕まえ続けていくように、進めてきました。
伊藤:時間がかかったけど、無駄になることは何ひとつないので、出し惜しみしないようにしました。コンセプトを考えることから、ひとつのモノを作って、伝えるまでをみっちりやった経験がこれまでなかったので、それだけで大きかったと感じています。
室屋:2人が意見を戦わせていると、残る2人が客観的に聞いて意見をもらえるのは、4人いるからこそだと思います。
山中:途中、真逆くらい違う意見が出たけど、その都度、折り合いをつけて落とし所を見つけました。今は4人それぞれが別の仕事をしていますが、あら部の活動には仕事とは別の意味があると実感できたので、これからも続けていきたいと思っています。