KOKUYO DESIGN AWARD 2017
2017テーマ:「NEW STORY」
世界53カ国から集まった1,326点(国内:880点、海外:446点)の作品の中から
一次審査を通過した10点を対象とし、2018年1月18日に最終審査を開催。
グランプリ1点と優秀賞3点が決定しました。
グランプリ
作品名
食べようぐ
作者
にょっき(柿木大輔/三谷悠/八幡佑希)
作者コメント
海外の自由なオフィスの雰囲気に比べ、日本ではなんとなく、おやつはポジティブな印象がありません。しかし本来、用具が仕事をはかどらせるものならば、おやつも立派な「用具」ではないでしょうか。たとえば「食べようぐ」がオフィスの備品になったら、会議中でも気兼ねなく口にできたり、オフィスの壁に貼り付けることでそこにコミュニケーションの場が生まれるかもしれません。おやつを成分として分解し、姿、居場所を与えることで、オフィスのおやつが「用具」として働きはじめます。
今までにない道具(用具)のあり方を提示してくれた作品だと思う。既存のジャンルにとらわれず、むしろミックスされていることがおもしろく、そういうところから新しい物語が生まれていくような可能性を感じた。「NEW STORY」というテーマにぴったりだったのではないだろうか。
植原 亮輔
ステーショナリーやオフィスの領域に、食の視点から新しいツールを生み出すというアイデアのジャンプがよかった。文房具か食べ物かわからない、領域のあいまいなものが生まれる時代の流れにも合っている。たくさんの機能性食品があることを踏まえ、デザインの力で効能やパッケージなどをもっと強化できるのでは。
川村 真司
実は、1次審査から最終審査にかけて僕のなかで大きく印象が変わった作品。作者から直接話を聞くことで、思考の過程や未来の可能性が見えてきた。快適に働くためのものと考えれば、食べ物だって立派なステーショナリーと呼ぶことができる。タブーのようで実は王道なのかもしれない。
佐藤 オオキ
プレゼンの時に食べてみたら想像以上においしく、口に入れる行為それ自体が、魔力を持っているように感じた。人を動かすツールという意味では、おやつもステーショナリーの一部としてとらえてもいいのではないか、というくらいの存在感があった。個人的には、カルシウムの「食べようぐ」があると嬉しい。
鈴木 康広
今年の審査は例年よりも難しかった。発想が新しくて、自分がほしいかどうか、また自分ではあまり考えたことのないジャンルがいいなと思って選んだ。商品化の際には成分やオーガニックな材料にこだわって、本当に健康によいものをつくってもらえたら個人的にも利用したい。
渡邊 良重
1次審査の時からおもしろい提案だと思っていた。働く人を活性化する、というのはコクヨがずっと取り組んでいること。対象が食べ物になるだけで、実は"どストライク”の提案だといえる。
KOKUYO
優秀賞
作品名
時の舟
作者
T4-202
(Chih Chiang, LIU / Yung Hsun, CHEN)
作者コメント
私たちは技術の力によって正確な時を知ることができるようになりました。しかしそれと同時に、時間の奴隷となってしまいました。
「時の舟」は人々に時間と人生について再考を促す時計です。
この小さな帆舟は、「時」という名の海を静かに、そして自由に心地よく航行します。
忙しい日常をペースダウンし、使う人の心を癒します。
「時の舟」には、時計がもつ多くの機能がありません。もちろん、目覚まし機能も。
それでも、いつかあなたの心にある何か大切なものを呼び起こしてくれるでしょう。
この具象的なかたちだからこそつくれるストーリーや感情の動きがある。機能の価値と同じように情緒的な価値も重視される時代においては、この作品のようにメタフォリカルな表現、あるいは、一つの文脈のなかでモノとストーリーを重ね合わせるような表現は今後も増えてくるのではないだろうか。
川村 真司
「NEW STORY」はいろいろな側面から切っていくことのできるテーマなので、審査で一度ふるいにかけて落ちたものが、別の視点で再評価・再解釈されて復活する場面がいくつかあった。この作品もそのひとつで、「なんとなくいいな」とパーソナルな感情に訴えながらも、みんなで共有したり、つながれる要素もある点が優れている。
佐藤 オオキ
人によって使い方が変わる上に、そもそも時刻がわからないのだから、以前のコクヨデザインアワードでは受賞しえなかっただろう。実用的なプロダクトの枠を超えて感性に応えるものへと機能の捉え方が広がっている気がする。そういう意味では、このアワードがいよいよひらいてきたな、本番がやってきたのだなと感じる。
鈴木 康広
時を刻むかたちとして魅力的だし、デスクの上でゆっくり回るシーンを想像して楽しくなった。近年、テーマがコンセプチュアルになり、考え方が明確に提示されたシンプルな作品が受賞することが多いが、この作品のように具象的で情緒を感じさせる作品が受賞したことは新鮮。今後もそういった作品も期待したい。
渡邊 良重
造形、本質的なデザインというところまで、使う人のことを本当に思い浮かべながらかたちにしていったのではないだろうか。ここ数年、コクヨデザインアワードのテーマを感性や物語といった方向に意図的に向けてきた流れから、必然的に生まれた作品だと思う。
KOKUYO
作品名
かきゴム
作者
ぷらばんばん
(中島奈穂子/木平崇之)
作者コメント
かきゴムは、ペン型消しゴムのような見た目ですが、「描く」ための道具です。
ペンのように使うと、ゴムが削れて描いた所に付着します。
描いた線は手でこするだけで簡単に消えるので、身の周りの色々なものへ自由に描いて、消すことが可能になりました。
紙に絵を描くことが当たり前になった私たち大人も、子どもの頃は紙という枠にとらわれずに自由に絵を描いていたはずです。
かきゴムを使ってそんな子どもの頃の自由な視点に立ち返り、新しい物語を作ってほしいと考えています。
プロトタイプの完成度が高く、提案内容に実感を持つことができた。模型の書き心地に多少の問題点はあったが、それは今後の研究に期待をしたい。親子で使用するシーンの提案があったが、「かく」と「けす」を両立していることで、子どもに自由な発想を促すとともに、後片付けまで教える教育的な側面も併せ持つツールになる可能性を感じた。
植原 亮輔
コンセプトもプロトタイプもすばらしいが、消しゴムではなく「かきゴム」という一種の言葉遊びのようにもとらえられ、これが本当にゴムである必要があるのか悩んだ。ほかの素材やかたち、ソリューションもあるのでは。そこがもう少し審査員の腑に落ちる提案になっていたら得票が増えたのではないかと思う。
川村 真司
壁に描ける画材として新しい書き心地が生まれる可能性を感じた。芯となるゴムの調合まで独自に手作りで実験されていたところが評価のポイントだった。現時点では性能にばらつきはあるが、未知の描く感触を生み出すために、素材開発から探ることで、現状とは全く異なるものも飛躍的に生まれるかもしれない。
鈴木 康広
プロトタイプのクオリティにばらつきがあったとしても、自らゴムの成分を研究してベランダで手づくりしたという作者の熱意と努力に動かされた。私たちも受賞作を商品化するつもりで取り組んでいる。こうした強い気持ちが商品化の実現において、とても大切だと思う。
KOKUYO
作品名
引き合う文具
作者
古舘壮真
作者コメント
磁力を持った文房具。
それぞれが磁力で集まりくっつくことでまとめる、入れ物を排除した塊としての文房具の提案です。
身近で当たり前に使われている磁石ですが、引きあったり離れあったりする目に見えない力は不思議なものです。その磁石に文房具の"機能"を持たせることで、ペンとペン、ペンと人、人と文房具、それぞれの関係性が変わっていきます。磁力による新しい使い方も期待でき、"文房具がくっつく"という意外性も会話のきっかけを作れるのではないかと思います。
毎日使う文房具だからこそ、使うことがちょっと楽しくなったらいいなと思います。
現実的な使用シーンを想定すると、文具を剥き出し、かつ磁力を持った状態で携帯することによるデメリットもありそうだが、それを超えるようなデザインの魅力や、作品の長所を際立たせる、考え抜かれたプレゼンテーションのうまさを感じた。
植原 亮輔
デザイン性やストーリーに加え、自分自身が欲しいかどうかという感覚も刺激された。写真やシートでは伝わらない、カチャカチャと音を立てて集まる感じが気持ちよく、実はこれは大事な要素なのではないかと。バーチャルが普及した時代だからこそ、五感やハプティクスにフォーカスした表現に今後も期待したい。
川村 真司
文房具を収めるというアイデアのなかで、半ば乱暴なくらいにまとめる感じがいい。くっついた時の音や感覚もおもしろい。プロセスについての説明も上手で、「この先こういう可能性がある」という未来を示唆する力があった。1次審査でインパクトがあっただけに、最終審査でもう一段階掘り下げることができれば完璧だった。
佐藤 オオキ
私はカバンにいつもたくさんの文房具を入れていて、気づいたらいくつも消しゴムが入っていたりして、いつもカバンのなかを探している。なので、こんな風にまとめて持ち歩くことができるという発想には驚いた。実際にシャープペンと定規と消しゴムを固めて使いたい。
渡邊 良重
文房具をまとめて持ち歩けるだけでなく、組み合わせて使えばコンパスにもなるといった意外な用途展開など、使用シーンまで具体的に提案されていたのがよかった。
KOKUYO
審査員総評
(※審査員の肩書は審査当時のものを掲載しております)
植原 亮輔
KIGI代表/アートディレクター・クリエイティブディレクター
新しいジャンルが生まれることを期待していたので、最終審査でその要素のある作品が出てきてよかった。作り手がデザインによってユーザーを導くのではなく、ある程度、余白や想像力をユーザーに委ねるような作品が増えてきたのは面白い傾向だと思う。一方で新しいジャンルの考え方をどう扱ったらいいのかわからず、議論が白熱する場面もあった。これからデザインはより進化していくので、応募者はアイデアの新しい構造を開拓する上に、感性の部分をより深く考えて表現しなくてはいけないだろうし、審査側ももっとそれを読み解いていくことが求められるだろう。
川村 真司
PARTY NY代表/エグゼクティブクリエイティブディレクター
初めて審査に参加し、本当に楽しかった。昨今、物語性や文脈といった要素をデザインの中に織り込むことがより注目されはじめ、情緒的な価値の重要性が語られるなかで、NEW STORYというテーマが出てきたのは必然だったと思う。応募者がそれをどう解釈するのか楽しみだったが、結果的にバラエティ豊かな作品が集まり、一つひとつフレッシュな気持ちで見ることができた。今後も時代の空気をとらえたテーマを始点として、こちらを驚かせてくれるような作品が増えることに期待したい。
佐藤 オオキ
nendo代表/デザイナー
一度ふるいにかけられて落ちた作品が、別の視点で再解釈され復活する場面がいくつも見られた。「NEW STORY」は、作品をさまざまな側面から評価することができる、おもしろいテーマであった。審査をしながら、パーソナルでありながら、多くの人と共感でき、つながりを広げていけるモノの可能性を強く感じることができた。久しぶりの審査員という立場であったが、コクヨデザインアワードのコンセプトとプロセスの進化にも驚かされた。
鈴木 康広
アーティスト
5年目の審査で感じたのは、はっきりとした目的がないものを扱えるようになったということ。使う人によって使い方が変わるような作品が増え、それらはニーズに応える商品というよりは、アートに近いような気もした。デザインという活動、クリエイターとしての生き方が流動的になり、通常の企業のクリエイションや閉じた価値観のなかでは不可能な、もっとやわらかなものづくりの可能性が広がっているような印象を受けた。
渡邉 良重
KIGI/アートディレクター・デザイナー
最終審査ではプロトタイプやプレゼンを通して、何かが凝縮しながら生まれる力を感じることができて嬉しかった。一方、今までになく審査は難しく、特に優秀賞を決める時は審査員の意見も少しずつ異なり、自分自身のなかでも迷った。例年コンセプトを重視し、シンプルで考え方のわかりやすいものが受賞しているなか、今年は具象性のある情緒的な作品も評価されたことが新鮮だった。今後もそうした方向性にも期待したい。
黒田 英邦
コクヨ株式会社 代表取締役社長 執行役員
15回目の節目を迎え、「美しい暮らし」「HOW TO LIVE」に引き続き、感性を揺り動かすような提案、そして新ジャンルを開拓するような作品を求めたい、という期待からテーマを「NEW STORY」に設定させていただいた。そこには、コクヨ自身も変わっていきたいという思いを込めている。審査して優劣を決めるというよりは、応募者の方々によるテーマの捉え方をとても興味深く拝見した。アワードを通じてコクヨも皆さんと一緒にこれからの価値について考え、提案していきたい。そんなイベントとして育ってきたのではないかという手応えを感じている。
最終審査/受賞作品発表/トークショー
レポートムービー
最終審査
10組のファイナリスト達は、今年のテーマ『NEW STORY』に向き合い、熱い想いを込めたプレゼンテーションを行いました。
審査員はそれに真剣に向き合い、コンセプトメイキング、デザインの完成度、商品化の可能性を視野に入れた慎重な審議を行いました。
受賞作品発表
見事、2017年のグランプリに輝いたのは『食べようぐ』。
ファイナリストの作品の模型は、会場に展示され、多くの来場者が熱心に見ていました。
会場では、過去の受賞作品も販売されました。
トークショー
今年のテーマ『NEW STORY』についての審査員の想いや、受賞作品の評価のポイントなどについて語っていただきました。
多方面でご活躍されている審査員ならではのトークに、会場は大いに盛り上がりました。