受賞者インタビュー
神戸意匠繰練所(山内 真一、二宮 慧、天野 文彰)
「roll table(テーブル)」
2011年度 グランプリ
検証を重ねながら、
アイデアは育っていく。
「Campus=学びのデザイン」がテーマだったコクヨデザインアワード2011。"学び"のブランドCampus、そのキーワードである「スマート&ポジティブ」を表現した作品が、ノートに限らず、他の文具から家具、空間にいたるまで、たくさんに集まりました。そのなかで、「rool table」という作品でグランプリに輝いたのが神戸意匠操練所のみなさん。メンバーである山内真一さん、二宮慧さん、天野文彰さんに作品づくりから受賞までのお話をおうかがいしました。
—— グランプリ、おめでとうございます。神戸意匠繰練所のメンバーは、みなさん同級生?
山内さん : 「いえ、僕ひとりが年上です。二宮くんと天野くんは同級生。神戸芸術工科大学の先輩後輩の関係です。」
—— 山内さんだけが社会人ですね。どんな仕事されているんですか。
山内さん : 「ウチは実家がオモチャ屋で、その二階が幼児教室になっています。いろんなことを子供たちに教えるんですが、そのなかの絵画教室を僕が担当しています。
—— 子供に絵を教えている。 "学び"のブランドCampusらしいお仕事ですね。
山内さん : 「今回の"roll table"のアイデアは、この絵画教室から生まれました。というのも、最近の子供たちは絵を小さく描くなぁって思っていたのです。昔、蝋石で道路いっぱいに絵を描いていた、そんな子供があまりいない。これってどうなのかね、と。」
—— 三人で話し合いをされたんですね。
天野さん : 「そうです。僕は子供の頃、紙を広げて絵を描いていました。楽しいからどんどん絵が大きく広がっていき、紙をはみ出してしまうんですね。すると親に怒られる。でも、それでも続きを描きたかったよねぇ、と。」
—— いまの子供の行動に、自分が子供だった頃の気持ちを重ねて考えた。
二宮さん : 「そして、紙をはみ出して机にまで描いてしまうなら、いっそのこと机に絵を描けるようすればいいと、思いついたんです。」
—— そうして"roll table"が生まれたんですね。
山内さん : 「他にもアイデアがあったんですが、三人のいろんな経験が活かされたこのアイデアが、一番すんなりと、いいなと思えました。」
—— まずアイデアがあって、それをテーマに結びつけた?
それとも、テーマを探ってアイデアに行き着いた?
山内さん : 「もちろん、最初は"学びのデザイン"とは、というところから考えだしました。ちょうどゴールデンウイークがあったので、2週間ぐらい集中してアイデアだしから作品づくりまでをやりました。特にブレストには時間をかけました。そうこうしているうちに、"小さく描いてしまう"というキーワードが出てきたりしたんです。」
—— 怒られるから小さく描いてしまう。
天野さん : 「とにかく僕は怒られた。でも、やめられない。床にも描きましたよ。」
—— それで描ける机にしよう、と。しかし、転がるっていうアイデアはどこから?
二宮さん : 「はじめは天板に描いて、その天板が剥がせるようにしようと思った。でも、それじゃ剥がした時点で一枚が終わる。そうじゃなくって、寸断されることなく永遠に続く一枚の絵が描けるような、そんなアイデアはできないものかと試行錯誤しました。」
山内さん : 「そこにあったのが、トイレットペーパーです(笑)。こうして紙を延ばしながら使えるといいね、と話していたら、コロコロ転がせば楽しいという意見も出てきて、そりゃ面白いかも!と。」
二宮さん : 「コロコロと転がしながら、無限に、自由に、学びをデザインできるなんて、素敵でしょ。」
—— 試作品はつくりましたか?
山内さん : 「はい。二次審査はモデルでの審査だったので。ただ、その二次審査では当確ギリギリだったと、後から聞きました。モデルの出来が悪かったのです。」
—— モデルづくりが難しかった?
山内さん : 「モデルをつくるために100mぐらいの紙を手で巻くんです。トイレットペーパーのように芯が丸ければ問題ないのですが、"roll table"は芯が四角なので、平面の部分がたるんでしまう。巻いては失敗を繰り返し、完成までに2週間ぐらいかかりましたよ。」
—— それはご苦労されましたね。でもグランプリ受賞!獲れる自信はありましたか。
二宮さん : 「授賞式でもそれを聞かれて、自信がありましたと答えました。でも、内心はそうでもなかったんです。他の方の作品を見たとき、これはどうなるかわかんないなと思いました。」
山内さん : 「僕は、グランプリ!と言われた瞬間、泣いてしまいましたよ(笑)。」
—— 受賞して、日常になんらかの影響はありましたか?
二宮さん : 「単純ですが、自分たちの創ったモノが評価されことで、自信がつきました。他には、学内で話をしたことのない先生や生徒から声をかけられるようになって、交流が広がりました。」
山内さん : 「僕は賞をいただいた後に、東京デザイナーズウィーク2011に出展して、そこでいろんな人から声をかけられました。デザインアワードで泣いてた人ですよね、と(笑)。コクヨデザインアワードは、多くの人が注目してますね。」
—— グループでやって、良かったことは?
山内さん : 「一人でできることには限界がある。仲間がいればモチベーションを支え合うことができます。」
二宮さん : 「僕たちは、三人それぞれの個性がうまく融合できたと思っています。だからみんなで、ひとつのものを創り上げることができる。」
天野さん : 「僕はすぐに、めげたり、やめようかなぁと思ってしまうタイプ(笑)だから、二人に励ましてもらえることが良かったですね。」
—— では最後に、これからコクヨデザインアワードに応募しようとしている人たちにアドバイスを。
山内さん : 「 "roll table"では、アイデアをカタチにして、それを実際に子供たちに使ってもらい、検証を重ねました。そんな、地に足の着いたやり方は間違っていなかった。この"検証をする"ことに関しては、選考委員の方からも評価をいただきました。本当にいいものは何かを、自分たちの経験から引っ張り出す。それを、実際に使う人に試してもらって意見を聞く。そうしながら、アイデアの芽を育てていけばいいと思います。」