ペーパーラップノート

ペーパーラップノート

〈2011 コクヨ賞〉

「ペーパーラップノート」は、食品ラップのように
好きな分だけ紙を切って使えるロール型のノートです。
書くこと、考えることがちょっと楽しくなる、新しいノートの提案です。

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受賞から6年後に商品化を検討

応募時の作品名は「Makino」。作者の佐々木愛さんは当時学生で、勉強中に「歴史年表や計算式など、通常のノートの見開きに収まらないものを好きなだけ長く書ければいいのに」と思ったのがきっかけで生まれた作品です。審査会では、「書くという行為を既存のノートの幅に合わせて制限しなくていい」「キッチンスペースにもノートの可能性が生まれた」と評価され、コクヨ賞を受賞しました。

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実際に紙を引き出して切り心地を確かめる佐々木愛さん

「その後、ずっとMakinoのことは気にかけていた」というのは、2011年から受賞作の商品開発を担当している藤木武史(シニアデザイナー)です。佐々木さんと同じ年にグランプリを受賞した「ロールテーブル」を商品化し、その後も毎年次々と生まれる受賞作の商品化に携わるなかで、なかなかMakinoに取り組む機会がありませんでした。「しかし、近年デジタル文具も隆盛な中、今のタイミングで改めて『紙に書く』ということを考えたいと思った。それで、2017年に佐々木さんに連絡をしたのです」(藤木)。

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これまで数々の受賞作を商品化してきた藤木武史(シニアデザイナー)

縁を感じるコラボレーション

受賞後、佐々木さんは卒業し、広告制作会社に就職。そしてデザイナーとしてのキャリアを積み、藤木から連絡を受けた時には、大阪の印刷会社に転職したばかりでした。藤木がMakinoの商品化を打診すると、佐々木さんは当時を懐かしんで、とても喜びました。しかし、商品化を実現するには大きな課題がありました。それは、既存の食品ラップのパッケージは仕込まれた刃を含めて特許が取られており、応募時のデザインは使えないということでした。

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佐々木さんが応募時に制作したMakinoのモックアップ

当時学生だった佐々木さんは、今やプロのプランナー。しかも、転職先の坂井印刷所は、奇しくもパッケージに特化した印刷会社だったのです。佐々木さんは不思議な縁を感じながら上司に相談すると、全面的に手伝ってもらえることになりました。藤木は、「パッケージは坂井印刷所、中身はコクヨ、というやわらかい役割分担にしました。通常、アワード受賞作の商品化は個人とコクヨの関係で進めますが、このようなコラボレーションが生まれたのは初めて」と言います。

パッケージのノウハウを全力で投入

パッケージについては坂井印刷所の設計士が、特許に触れないよう、刃を使わずに紙を切る仕組みを考えました。使用に耐えうる構造にするために、素材を変え、表面加工をし、何度もトライアンドエラーを繰り返しました。また、単に「紙を切る」という機能を実現するだけでなく、受賞時に審査員から評価された「使ってみたいと思わせる楽しさ」「切った時の気持ちよさ」にもこだわりました。「刃の代わりにプラスチックや堅い板を貼り付ける案もありましたが、コストや組み立ての効率で難しかった。このパッケージは、一切のテープも使わず、一枚の紙だけで組み立てることができます。蓋を開閉する時にはカチっという音がするなど、使い続けたくなるおもしろさがあると思います」(佐々木さん)。

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パッケージの構造や表面の仕上げを確かめるために数多くのモックアップを制作した

一方、コクヨ側では、中身の用紙についていかに安く、品質よくつくれるかを検討しました。「Campusノート」に使っているのと同じ紙をロール状に巻きます。応募時はノート1冊分の7.6メートルの想定でしたが、商品化にあたってはノート約2冊分の15メートルを巻いて、たっぷり使えるようにしました。実際に、10センチずつ紙を引き出して、150回切り取る使用実験を行い、パッケージの耐久性を確認しました。

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ハサミや刃で紙を切る時とは違う、どこか温かみのある感触が特徴

応募時の名称「Makino」も、もっとわかりやすい商品名「ペーパーラップノート」に改称することになりました。食品ラップのような使い方で、規格にとらわれず自由にどこまでも使えるノートの誕生です。

藤木は、「坂井印刷所だったから商品化できた。別のところに相談していたら『できない』で終わっていたと思うんです。コクヨにはないスキルや経験の元で、ものづくりをできたことは私たちにとっても大きなステップ」と振り返ります。佐々木さんも、「特許というハードルを越えて、いかに成立させていくか。上司や設計士と一緒になってつくらせてもらったプロセスが大事な経験になりました」。

幸せなプロジェクト

「ペーパーラップノート」は、1月末に商品発表を行い、THINK OF THINGSや丸の内KITTEでのポップアップショップを通じて、販売が開始しました。パッケージには、作者である佐々木さんの名前がしっかりと印刷されています。

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既にTHINK OF THINGSには商品が並んでいる。店頭で試すこともできる

「学生時代に取り組んだことが、今の仕事につながっていることが感慨深い。当時の自分に教えてあげたいです。これから皆さんにペーパーラップノートをどんな風に使っていただけるか、とても楽しみ。いろんなところに文房具の居場所ができるといいなと思います」(佐々木さん)。

「コクヨデザインアワードでは受賞作の商品化に力を入れていますが、受賞したから商品化を急ぐのではなく、その時代に求められる商品として世に送り出していきたいという思いがあります。何年か経って、プロのプランナーとなった受賞者に会うことができ、そこからプロジェクトをスタートできたのは、本当に幸せなことでした」(藤木)。

時を越えてすべての条件がそろった時に、つくり手がつながり、最高のものづくりができる。「ペーパーラップノート」は、コクヨデザインアワードが目指す「商品化」の理想を体現したような商品です。

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できたばかりの商品を手にするコクヨ藤木と佐々木さん