受賞者インタビュー

伝野輔
「削鉛筆」

2024グランプリ

コクヨデザインアワード2024において、応募総数1,480点の中からグランプリを獲得した伝野輔(たすく)さん。「本質の再定義」と解釈された今回のテーマ「primitive」に対して、自分の欲しい形に削って使う、素材としてのプロダクト「削鉛筆」を提案しました。「説明不要な直球の提案」と審査員から評されたとおり、鉛筆という画一化されたものを素材に戻すシンプルな手法で、そのものの持つ本質を見事に捉え直したこの作品。どのようにして生まれたのか、伝野さんにお話を聞いてきました。

「自分が本当にやりたかったこと」に改めて向き合う

――  普段はメーカーで製品設計の仕事をされているとのことですが、応募のきっかけは何だったのでしょうか?

伝野:じつは以前デザイン会社に勤めていたときに、コクヨデザインアワードにチャレンジしたことがありました。20代で2回、30代で2回ですね。年齢的にも勢いがあって、「絶対にコンペ獲るぞ!」と意気込んでいたのですが、なかなか選考に残らずという感じで......。そんなときに転職をして仕事内容が変わったこともあり、モチベーションも徐々に落ちてしまっていたのですが、今の仕事を続けるなかで、ふと「このままでいいんだっけ?」と思うことが増えてきたんです。デザインへの情熱や「もっと面白いことをやってみたい」という気持ちが再度沸き始めて、ちょうど1年くらい前からデザイン活動を再開し、今回コクヨデザインアワードに挑戦しました。

幼いころの「劣等感」「不自由さ」が作品の原点

――  今回のテーマ「primitive」の第一印象は?

伝野:まず、日本的な世界観を直感的に感じました。またデジタル化が進む世の中で、人間の根源的な感覚を呼び起こすようなプロダクトを考えたいなと思いました。そういった考えでいたら、不思議とアイデア出しには困らなくて。このテーマだったからこそ、今回のアワードへの応募を決めたといってもいいかもしれません。

――  相当たくさんのアイデアを出されたと思いますが、「削鉛筆」に着地した背景を教えてください。

伝野:「削鉛筆」は比較的最後の方に出たアイデアです。この案が出るまでは、どちらかというとロジカルな計算に基づきアイデアを出していたのですが、「削鉛筆」については自分の幼いころの原体験から着想を得ています。

私は幼いときから手が大きく、標準規格の鉛筆をうまく持つことができませんでした。鉛筆の持ち方を周囲から指摘されたこともあり、劣等感や不自由を感じることも少なくなかったんです。また、私は両親の教育方針で、鉛筆を鉛筆削りではなく小刀で削っていました。周りの子からしたらすごく浮いた存在だったでしょうね。この二つの思い出が融合されて、「握りやすさ」と「道具を自分で削る行為のおもしろさ」を追求して形にしていったら、何か新しいプロダクトができるんじゃないかと考えました。

――  プレゼンテーションシートを制作するうえで、大事にしたことや工夫したことは何でしょうか?

伝野:こういったシートを作るときって、どうしてもCGや3Dに力を入れがちなんですけど、それよりも木を削る感覚や香りなどの世界観がしっかり伝わるように意識しました。具体的には、写真に削りカスをあえて映り込ませたり、背景に削りカスを想起させるようなデザインを入れたりすることで、ひと目見て「削っているんだな」ということが分かるように工夫しました。

「削鉛筆」のプレゼンテーションシート

最終審査から感じていた、グランプリへの手応え

――  ファイナリスト選定の通知を受けて、模型制作はどのように進めていきましたか?

伝野:じつは一番選ばれる自信のあった作品が、樹脂成型や金属加工で作るイメージをしていたので、模型を作るとなったら外部の加工会社に依頼をするつもりでいました。そういった想定とは裏腹に「削鉛筆」が選ばれたので、まずは自分で材質を選定するところから調べ始めましたね。

実際に多くの鉛筆で使われているのは、インセンスシダーというやわらかいヒノキ科の木材なのですが、個人で入手するのがなかなか難しくて......。そこで、この木材に近い材質のものを10種類くらい選び、木工の加工機を購入して試作品を作っていきました。ただ、やはりどれもかたくて、最終的にはインセンスシダーほどのやわらかさをもつ木材には出合えなかったのですが、できる限り削りやすく、また削ったときに心地よさが感じられるものを絞り込んでいきました。

――  素材選定の他に、苦労した点はありますか?

伝野:一般的に鉛筆は、板に溝を彫ってそこに芯を置き、もう1枚の板を挟み合わせて鉛筆の形状に削り出すという工程を踏むのですが、私の模型だとそれができなかったんです。そこで今回の模型では、板の両端から穴をあけ、芯を埋め込む加工をしています。板の継ぎ目がないので見た目はきれいなのですが、板に穴をあける加工がとにかく大変でした。

――  グランプリ発表時の率直な感想を教えてください。

伝野:今回の作品はかなり個人的な思い出から着想を得ているので、自分の経験が認められたということが本当に嬉しかったですね。また自分としても、最終審査を通して「やはりprimitiveというテーマと自分の作品は合致しているな」と再認識したので、「もしかしたらいけるのでは?」と手応えを感じていました。結果、グランプリを獲ることができ、本当にここまで頑張ってきてよかったなと思います。

伝野さんのプレゼンテーションの様子

人の時間を豊かにするデザインを追求

――  改めて、アワード全体を振り返っての感想はいかがですか?

伝野:仕事をしながらの制作だったので、時間のやりくりなどは苦労しましたが、やはりアイデアが湧き出る感覚は楽しいなと、20~30代でコンペに打ち込んでいたころの情熱を思い出すことができました。そういった思いや感性は創作活動を継続していかないと鈍ってしまいますので、今後もコンペ系を中心に挑戦は続けていきたいと思っています。

――  伝野さんが良いと思うデザインとは、何でしょうか?

伝野:私はデザインを考えるうえで、「使う人の時間をどのように豊かにするか」を大事にしています。人間は限られた時間で一生を終えていきます。私がデザインしたものを使ってもらうことは、その貴重な時間を使わせてもらうことにもなるので、ユーザーの心に残る体験につながるような、アイデアやデザインを生み出していきたいですね。

――  コクヨデザインアワードへの応募を考えている方へ、メッセージをお願いします。

伝野:私の経験からお伝えすると、やはりアイデアの幅を広げることは大事なので、自分が「絶対にこれだ!」と思うアイデアに固執し過ぎると、なかなか結果は出にくいのかなと思っています。また今回のアワードを通して、あれこれ考えることももちろん大事ですが、最終的には自分の実体験に勝るものはないのかなと感じています。アイデアを考えるうえで、自分の感性に触れて、その感覚に素直になれれば、おのずと良いデザインにつながるのではないでしょうか。