受賞者インタビュー

AATISMO(中森大樹/海老塚啓太)
「素材としての文房具」

2016年度 グランプリ

コクヨデザインアワード2016のグランプリを受賞したAATISMO。鉛筆、定規、消しゴムを長い棒状にして、好きな長さに切って使える「素材としての文房具」は、文房具の原点、使い手や販売のあり方にも迫る渾身のコンセプトが評価されました。受賞後もプロダクトデザインと建築という異なるバックグラウンドを活かして幅広いジャンルで活動する2人に、応募作品のコンセプトやデザインプロセスについて聞きました。

「文房具のオリジン」までさかのぼる

――  コクヨデザインアワードに応募したきっかけを教えてください。

中森:海老塚君とは、とあるコンペのファイナリスト同士だった縁で話をするようになり、お互いにないものを持っていると感じて自然にコンビを組むことになりました。一緒に活動するきっかけとしてコンペに参加してみようと、コクヨデザインアワードに応募したのです。

――  2016年のテーマ「HOW TO LIVE」をどのようにとらえましたか。

中森:とても抽象的なテーマ。だからこそ、あえて普段から自分がもっている問題意識や感じていることをベースに考えていけば、自然と答えが「HOW TO LIVE」に向かっていくのではないかと思いました。

海老塚:テーマのリード文冒頭に「モノがあふれている現代」と書かれていて、デザインコンペなのに「モノはいらない」とでもいうようなテーマにどうやって応えようかと。2人で話し合いながら、まず文房具のオリジン、原点を調べることからはじめました。

――  「文房具とは何か」というところまでさかのぼっていった、と。

海老塚:調べているうちに、「文房具とはこうだ」と明確な答えを導くというよりは、文房具をむしろ「ゆるやかなもの」としてとらえようと思ったんです。本来、記録することが目的なら、石でそのへんに書けばいいわけで。そのくらいシンプルで素朴なものではないかと。

中森:例えば、大昔の鉛筆は太い芯を木の板ではさんで紐で巻いたものだったとか。身の回りのものを使って即興的にブリコラージュしたような工夫の痕跡が見られるんです。今の文房具は機能や目的が細分化されているため、使う人が必要に応じて自分で考えたりつくるといった機会が減っています。そこで、使う人にとって余地あるもの、使う人が選んだり使い方を考えられる文房具はどうか、というアイデアが生まれたのです。

――  そこから「素材としての文房具」のコンセプトが生まれたわけですね。

海老塚:話すなかで、「量り売り」というアイデアが出てきたんですよ。イタリアではハムやチーズを量り売りしていますよね。そのまま置いてあって、店員さんにざっくり切って詰めてもらうような。

中森:でも量り売りだと、日本の店舗では売ることができない。じゃあ、買った人に切ってもらったらいい。この考えが浮かんだ時に、「素材」という概念にたどり着いたのです。素材なら、一定の長さの棒でいいじゃないかと。

海老塚:コンビでやるメリットはこういうところ。話し合うなかで他者の目線が入ることなんです。特にバックグラウンドの異なる2人が話すので、アイデアを発展させていきやすかったです。

素材と加工品のあいだ

――  「鉛筆」「消しゴム」「定規」を選んだ理由は。

海老塚:使う素材を、木、金属、プラスチックと変化させたいと思ったのと、断面形状として、丸、三角、四角にしたかった。さらに使用目的も、書く、消す、補助する、と対比させています。だいたい僕はものごとを3つにしたいんです。2つだと二項対立になってしまうが、3つなら循環しながら発展していくのではないかと思っていて。

――  モデルをつくる上で考えたことはありますか。

海老塚:どこまでデザインして、どこからデザインしないかということはかなり話し合いました。やりすぎると、素材でなく加工品になってしまうので。

中森:例えば、1センチごと10センチごとにスリット入れるのか、アルミにヘアラインを入れるか入れないか、目盛りを印字するのか刻むか、といったことですね。素材としての余地を減らしてしまう要素は、可能な限り削ぎ落としていきました。

――  日本語タイトルは「素材としての文房具」、英語タイトルは「Raw Stationary」です。タイトルの意図は。

海老塚:Rawは「生」という意味。日本語タイトルでは「生文具」というアイデアも出たのですが、あまり気張ってつけると加工されたものになってしまう。

中森:きれいな感じにまとめることを避けました。パッケージ化されると問いかけが薄れて、見た人が「そういうものなんだ」と受け入れてしまうため、できるだけ素直な表現を心がけました。

コンペを通じて感じた「ストーリーの力」

――  持ち時間5分間の最終プレゼンの内容を教えてください。

海老塚:文房具とはそもそも何なのかを伝えるため、前半は文房具の歴史やバックグラウンドの説明をしました。残り半分は、あえて特殊な使い方を中心に紹介しました。

――  印象に残っている審査員のコメントはありますか。

海老塚:プレゼンの後に、審査員の方から実際のつくり方や製品化の可能性についてたくさん質問されたことが印象に残っています。

中森:僕は、田川欣哉さんの「HOW TO LIVEというテーマをわかりやすくした上で、作品を問いとして返している。メディア的な波及力がある」というコメントが印象的でした。僕たちがやりたいと思っていたことを言語化してくれたのが嬉しかったです。

――  グランプリが決定した時の感想を教えてください。

海老塚:概念的なものがちゃんと伝わればいいなと思っていたので安堵したという感じです。

中森:こうしたコンペではキャッチーな見た目が評価されることが多いなかで、“ただの棒”の背景にある考え方やストーリーを認めてもらえたことが嬉しかった。今回の体験を通して、ストーリーの力はすごいなと思いました。これからはそういったところにデザインの可能性があるのかな、と感じています。

わかりやすいプレゼンテーションを心がけて

――  ほかのコンペと比べてコクヨデザインアワードはどんなアワードですか。

中森:さまざまな方向性の作品が受賞しているという印象です。便利なもの、美しいもの、色々な提案が評価されているので、全く新しいものを提案しても受け入れられるのかなと思っています。

海老塚:受賞したら商品化の可能性があるのも魅力です。建築のアイデアコンペは受賞してもそれで終わりなので、自分のアイデアをかたちにできる機会をずっと求めていました。僕たちにとっては、商品化というのはコンペを選ぶ1つの指標でもあります。

――  AATISMOとしては今度どのような活動を。

海老塚:コクヨデザインアワードのグランプリ受賞を知った後輩に誘われて、ドイツ・ライプツィヒの展覧会に参加します。ドイツと日本の建築を紹介する場で、オリジナルの展示台を提案すると同時に、これまでの作品を紹介する予定です。今後もさまざまなコンペに応募しながら、色々なジャンルで活動していきたいです。

中森:AATISMOのAATはアート・アンド・テクノロジーという意味。海老塚は建築とアート、僕はデザインとエンジニアリングをやっているので、今後もお互いの振れ幅を活かしながらおもしろいことに取り組んでいきたいです。

――  最後に、これからの応募者へのメッセージをお願いします。

海老塚:どんなテーマであっても、普段自分が思っていること、疑問に感じていることなど、パーソナルなところからはじめれば、とってつけたものではなく深みが出ると思います。あと、やはりポイントはプレゼンテーションに尽きますね。やりたいことをいかにわかりやすく伝えられるか。自分の考えを整理する意味でも、作品づくりと同時にわかりやすいプレゼンを組み立てていくとよいかもしれません。