受賞者インタビュー
オバケ(友田菜月、三浦麻衣)
「いつか、どこかで」
2020 グランプリ
コクヨデザインアワード2020において、応募総数1,377件のなかからみごとグランプリを受賞した「オバケ」の友田菜月さんと三浦麻衣さん。作品「いつか、どこかで」は、廃材を鉛筆として再生させることで、木に残る記憶が使う人を通じて未来に受け継がれていくというコンセプトの提案でした。「取り組みを通じて、多くの人やコミュニティを巻き込むポテンシャルがある」「小さな鉛筆の中に無限の可能性を内包した物語のデザイン」と高く評価された作品を生んだおふたりに、応募から受賞までのプロセスや、受賞後の変化を聞きました。
―― 普段はどのようなお仕事をされていますか?
三浦:大学では建築を専攻し、大学院まで進みましたが、今は広告代理店でコピーライターとして働いています。入社4年目になります。
友田:私は美大出身で、三浦と同じ広告代理店でアートディレクターをしています。私も大学院を出ていますので、三浦とは同期入社で同い年です。
コクヨデザインアワード2020グランプリを受賞した「オバケ」の友田菜月さん(右)と三浦麻衣さん(左)
―― コクヨデザインアワードに応募されたきっかけは何だったのでしょうか?
友田:美大生だったので、大学生の頃からコクヨデザインアワードのことはもちろん知っていましたし、何度も応募してきました。ここ数年はKIGIさんが審査員をされているので、いつかファイナリストになって直接お会いしたいと思っていました。
三浦:私も大学の先輩を通じてコクヨデザインアワードのことはずいぶん前から知っていました。会社に入ってからも周囲で挑戦している人がいて、実は、2015年の優秀賞で商品化もされたカレンダー「儚く、美しく」を受賞したのは同じ会社の同期です。自分も挑戦したいと思っていたところに、田根さんが審査員として加わられたことを知り、これは応募しなければ、と思いました。
―― 受賞作品「いつか、どこかで」の最初の着想はどういったところにあったのでしょうか?
友田:最初はモチーフとして「鉛筆」というはありかもな、とぼんやり思っていたくらいで、具体的なコンセプトやアイデアはなかったんです。締め切りの数日前になって、三浦が「古材を鉛筆にしたら・・・」というアイデアを出してくれたのをきっかけに、二人で一気に詰めていきました。
三浦:出したアイデアはたぶん全部で30~40くらいあった気がします。二人でアイデアを出し合った上で、その良さを、どうネーミングや言葉で伝えていくかを私が考え、どうグラフィックで伝えていくかを友田が考え、アイデアの意図がしっかり伝わるようにプレゼンシートをデザインしていきました。応募作品としては最終的に15案作りました。「いつか、どこかで」もその中の一つです。
―― 「古材の鉛筆」という着想から、具体的にはどういった練り上げ・検討をされましたか?
三浦:テーマの「♡」をどう捉えるかはとても重要なポイントだと思っていました。形としてのハートか、意味としてのハートか、使う人にとってのハートなのか。テーマへの光の当て方のバリエーションを考えながら、どういう捉え方がもっとも「♡」なのかを深堀りしていきました。
友田:普段、広告制作を仕事にしていることもあって、自分たちのアイデアはプロダクトの姿形よりも、コミュニケーションが先行しがちです。なので、応募書類として提出するプレゼンテーションシートの中の「三面図」をどう描くかは、悩みました。
プロダクトとしては鉛筆なのですが、単に鉛筆の絵を描いても自分たちの意図が伝わるとは思えませんでした。ぎりぎりまで、どうしよう、と悩んでいましたが、最終的には、製造工程上無理がないということを示そうと、この鉛筆がどのように作られるかをイメージしてもらえるような絵を描いて提出しました。製造過程そのものに意味を持たせられたらいいんじゃないかと思ったのです。
―― 一次審査通過の連絡が来たときはどう思いましたか?
三浦:実はこの作品がプロダクトのコンペで選ばれるとは思っていなかったので、本当にびっくりしました。それと同時に、「なぜ選ばれたんだろう?どこが評価されたんだろう?」と、しばらく悶々としましたね。
三浦:私も同じでした。分かったのは一次審査を通過したという結果だけで、なぜ通過したのかが分からないので、最終審査に向けてどこのポイントを磨いていけばいいのか、すごく悩みました。
とはいえ、まずは、古材を探しに行こう、と思って、長野県にある古材屋さんに話を聞きに行き、古材の再利用について、当時の自分たちが知らなかったさまざまな知識を教えてもらうことができました。この時のインプットはその後の練り上げにつながったと思います。
―― 最終審査に向けて、どのような検討が行われたのでしょうか?特に力を入れたポイントなどはありましたか?
友田:本当に作れるのか、どうやって作るのか、プロダクトに言葉を入れるとしたらどこにどんな言葉を入れるべきか、どこまで元の形を想像させるか等々、考えなければならないことが山積みの状態でした。中でも、一番時間を使ったのは、「♡」とどう結びつけるのか、です。
「古材を使った鉛筆」というと、「特定の思い出を取っておくサービス」と考えるのが一般的だと思います。たとえば、「おばあちゃんの家を取り壊すので、記念に柱の材を使って鉛筆をつくって配りましょう」みたいな感じ。すごく分かりやすいのですが、私たちとしては、「廃材の元の姿を知らない人が、鉛筆を手に取って想像することによって、人の思いが残り続ける」というコンセプトを貫きたいと思っていました。ただ、このコンセプトは理解されにくいことも自覚していたので、どうしたら多くの人に伝わるか、という部分ではすごく悩みました。
三浦:空想できるところに「♡」があり、同じプロダクトであったとしても、それを手に取った一人ひとり、それぞれの「♡」があり得る、というのが面白い、と考えたんです。
友田:このコンセプトで大丈夫だ、という手ごたえをつかんだのは、友人たちに絵を描いてもらった時です。モックアップとして自分たちで古材を使って作った鉛筆を渡して、「この鉛筆の前世を想像して絵に描いてみてほしい」とお願いしたんです。集まった絵を見てみたら、人によってイメージする風景が全然違っていて、「これはいける!」って思いました。
―― 最終審査プレゼンは急遽オンライン開催になりました。
三浦:コンペティションの最終審査がオンラインでのプレゼンビデオ審査というのはさすがに初めてのことだったので、何十回も撮り直しました。
友田:審査員の方々にとって大きな問題ではないと分かっていながらも、動画の画質や伝わり方には気を遣いました。
―― 最終審査でのコメントで特に印象に残っている言葉はありますか?
三浦:柳原さんから、「一次審査ではノーマークだったけど、モックアップを見て突如イメージが湧いてきた」と言われたのがとてもうれしかったです。
友田:田根さんが「いまの世の中を踏まえた上で、コクヨの姿勢として今年はこの作品に賞をあげるべき」という話をしてくださり、プレゼンで直接的にそういう話をしなかったにもかかわらず、汲み取ってもらえていたというのはうれしかったです。説明できていたらもっとよかったかもしれないのですが・・・。
最終審査の様子
―― グランプリ受賞後に、変化したことがあれば教えてください。
三浦:二人で会って話す機会が増えましたね。グランプリを頂けたことで、「この考え方、このやり方でいいんだ」と自信が持てたことがすごく大きな前進でした。
友田:二人の活動に注目もしてもらえるようになりました。これからも「オバケ」として活動していこうと、ロゴ入りのTシャツと靴下を作って販売してみたり、アート活動をしたり、コンペに挑戦したり、仕事とは少し距離のあるところで制作をしています。
何か目標を持って活動していくというよりも、やりたいことをしたい、今を楽しみたいという思いが強いです。
―― 商品化のプロセスも進んでいますが、期待感や要望などがあれば教えてください。
友田:プロダクトを生み出す工程一つひとつが勉強になっています。作り手のこだわりや仕事の仕方そのものが刺激になります。
三浦:商品化にあたっては、やはり「手に取った人が鉛筆の前世を想像できる」という部分を大事にしたいです。コンセプトがコンセプトで終わらないように、プロダクトとして形にできたら嬉しいです。
―― 最後に、今年のコクヨデザインアワードに応募を考えている方に一言メッセージをお願いします
三浦:一次審査では主にコンセプトを、最終審査ではプロダクトとしての価値まで入れた形で、2段階で評価されるのがコクヨデザインアワードの特長であり、いいところだと思います。アイデアやコンセプトを頭の中で考えて終わるのではなく、モノとして形にするところまでやりきるのは大変だけど、楽しみも大きいです。
友田:パソコンの画面上で「いけるな」と思っても、実際に作ってみるとぴんと来ないとか、うまく動かないことがあります。なので、応募の段階からモックをつくるくらいの気持ちで、最終的なプロダクトを早い段階でイメージしておくといいかもしれません。