受賞者インタビュー

浅沼 尚
「roots(ワーキングテーブル)」

2009年度 グランプリ

"roots"で仕事を美しく。

みんなが安心して使えるステーショナリーや、ワーカーの活力を支えるオフィス家具。いざというときに役に立つもの、なくてはならないもの、などなど。2009年のコクヨデザインアワードでは、未来の生活において"よりどころ"となるデザインを募集しました。その年のグランプリが、浅沼尚さんの"roots"という作品。応募のきっかけから受賞にいたるまでのとっておきのお話を、浅沼さんにお聞きしました。

——  受賞された2009年当時は、何をされていましたか。

すでに社会人でした。電機メーカーで、現在と同じプロダクトデザインの仕事をしていました。


——  "よりどころ"というテーマに、どうして文房具ではなくオフィス家具を選ばれたんですか。

あくまで個人的な見解ですが、文房具はすでにユーザーのニーズに対応したものがたくさん発売されている。でもオフィス家具は、商品の展開がまだ十分じゃないと思いました。それに、オフィスでの働き方がめまぐるしく変化しているなか、時代に合ったオフィス家具がますます必要になるのでは? と思ったのがきっかけです


——  なるほど。働く人にとってのよりどころは、オフィスですからね。だからワーキングテーブルをチョイスされた。"roots"の発想の原点は?

まず、オフィス家具に対する価値や機能、商品の意味や使用する環境などを、あらゆる方向から分析。要素を洗い出し、何ができるのかを発想するというステップを踏みました。そのなかで、仕事における"よりどころ"とは、情報やエネルギーなのではないかというアイデアが浮かびました。

——  言われてみれば、情報やエネルギーは確かにワーカーの"よりどころ"となっている。

はい。そのアイデアをもとに、柔軟性があり、見た目にも美しいデザインを考えました。その結果、パソコンやLANなどの配線ケーブルがテーブルの脚にすっきりと収まる、連続性のあるスマートなデザインが生まれました。

——  デスク周りを美しく保てますよね。最初からグランプリを獲るつもりで応募されたんですか。

どうせ応募するなら、獲るつもりでいかないと(笑)。実は、コクヨデザインアワードが初めてのコンペだったんです。なので、賞を獲れたらいいなあとは少なからず思っていましたよ。そのほうが制作のモチベーションも上がりますし。


——  初応募でグランプリ、お見事です! 美しいデザインが、高く評価されたんでしょうね。
"roots"というネーミングもかっこいい。この名前には何か特別な意味が?

ネーミングとは、コンセプトを言い表すものだと思っています。作品が持つ機能性を、地中に張り巡らされる植物の根=rootに置き換えたんです。"よりどころ"である情報やエネルギーを、まるで水分や栄養分のように吸い上げていくことによって、ワーカーに働きやすさという価値をもたらす。そんな意味を込めました。

——  奥がとっても深いですね。ところで、"roots"の美しいデザインを審査員に伝えるためには、 パネルのみでの説明は難しくなかったですか。

コンセプトがはっきりしているので、パネルはあくまでシンプルにしました。ごちゃごちゃ書かない、語らない。要点だけを、明解に表現しました。

——  それは意外です。モデルに関しては?

これはこだわりましたね。 作品本体はもちろん、梱包する箱の構造にいたるまで工夫しました。ただモデルを提供するのではなく、箱を開けるときの期待感や喜びまでを、総合的に演出しました。

——  プレゼンテーションを、エンターテイメントに変えたということですね。
受賞後、なにか変化がありましたか。

いろいろな方に、声をかけていただきました。社内では、『ちゃんと仕事してるの!?』なんてからかわれたり(笑)。自分もコンペに挑戦してみようかな、という同年代の社員も増えましたね。企業に属していても、コクヨデザインアワードには参加できるんで。そういう意味では、僕がいい例になったのかなとは思います。


——  反響は大きかったようですね。デザインに対しての考え方に、変化はありましたか。

デザインの方法論のひとつとして、モノの価値や機能や意味を一度すべて出して、それを組み立てていく。この方法が有効だということが、自分のなかで確立されました。なかなかそういう機会は少ないですからね。仕事だとコンセプトが最初から決まっている状態が多いし、さまざまな条件も付いてくる。そのなかでモノづくりをしていくんですが、それとは違うアプローチができるのがコンペ。自分のデザインに対する考えは有効だと、確認することができました。


——  では最後に、これからコクヨデザインアワードに応募しようとしている人たちにアドバイスを。

自分のなかでいいなと思ったアイデアは、とりあえずカタチにして応募する。これがポイントですね。何が評価されるかは自分ではわからないものです。だからとにかくたくさん応募してみる。あとは、その時代に応じた、新しい切り口を見つけることが大事だと思います。僕が応募した2009年当時と現在とでは、社会の状況もデザインに対する意識や見方も変わってきている。使い手のことだけ考えるのではなく、コミュニティの価値を高めたり社会に貢献したりと、もっと広い目でデザインを捉えていくことが必要とされています。いろんな視点を持って、いろんなアイデアを生み出してください。