受賞者インタビュー
にょっき(柿木大輔/三谷 悠/八幡佑希)
「食べようぐ」
2017年度グランプリ
コクヨデザインアワード2017において、応募総数1,326件のなかからみごとグランプリを受賞した「にょっき」。作品「食べようぐ」は、オフィスにおけるおやつを文房具と同じような備品としてとらえ、働く人をポジティブに動かすための提案です。コクヨデザインアワード史上、食品が受賞するのははじめて。審査員からは、「新しいジャンルの挑戦」「NEW STORYというテーマに合っている」「使用シーンの提示も明快」と高く評価されました。作者のにょっきに、応募において工夫したことやアワードに参加した感想などを聞きました。
テーマ「NEW STORY」の真意をとことん話し合う
―― 応募のきっかけを教えてください。
柿木:僕と八幡のふたりにとっては今回が4回目の挑戦だったんです。毎年応募しながら、だんだん似たようなアイデアしか出せなくなって。
八幡:ほかに一緒にできないかと人を探していた時に、三谷が加わることになりました。
三谷:私も、コクヨデザインアワードに応募するなら、誰かと一緒にやりたいと思っていました。1人の気づきやアイデアに対して、誰かと対話しながら進めることで、より話題が展開していくことにおもしろさを感じるからです。
三谷 悠さん
―― 2017年のテーマ「NEW STORY」についてはどう感じましたか。
柿木:どのようにもとらえられるからこそ、とても難しいと感じました。まずは、アイデアを絞るよりも、どんどん広げていきました。「働き方改革」など、世の中の動きも気にしながら、「日本がこれからどうなっていくのか」を考えてみたり。詰まってくると、審査員のインタビュー動画を見て立ち返ってはまたアイデアを出す、を繰り返しました。
三谷:話し合いを続けるなかで、15年の節目を迎えたコクヨデザインアワードが、「NEW STORY」というテーマを通じて求めているのは、「ニュージャンル」なのではないか、ということが見えてきました。そうだとすれば、これまでの受賞作を見直す、というよりは、全然違うものを提案したほうがこの力強いテーマに合うのではないか、と。
八幡:ジェスチャーや音の提案など、文房具からどんどん離れていきましたね。
八幡佑希さん
三谷:ふと、誰かが「引き出しのなかにおやつをしまっているよね」と言ったことで、「食べ物」のアイデアで盛り上がったんです。そのきっかけが、私と八幡の留学先での経験。先生や学生がミーティング中にバナナの皮を剥きはじめたり、プレゼンしながらお菓子を食べる様子が衝撃的でした。そんなリラックスした感じは日本にはないけれど、仕事をはかどらせるための用具としておやつをとらえることはできると思いました。
―― 反対意見はなかったのですか?
柿木:僕は正直ちょっと混乱したんですよ。ふだんプロダクトや自動車に取り組んでいて、形がなくなるものについて考えたことがなかった。デザインコンペで食べ物の良さを提案するのは、大変そうだなと(笑)。
柿木大輔さん
三谷:現実的な柿木が冷静な目線で問いかけてくれるので、あいまいなことや説明の足りないことが見えて、一緒に考え直すことができました。
柿木:僕自身も「見方を変えれば食べ物も用具といえるかもしれない」と納得していきました。用具や自動車を使うことが人間の機能を拡張することだとしたら、食べ物で目が覚めたり、パワーアップすることも同じだと思ようになりました。
三谷:コクヨには文房具とオフィス家具の部門がありますよね。私たちもおやつを文房具のような用具としてとらえると同時に、オフィス全体で使える何か、としてとらえていったところがあります。
さまざまな視点から、全員の納得がいくまで話し合ったという。
個人向けからオフィス向けの提案へ
―― 1次審査ではどのようなことを伝えようとしましたか。
三谷:まだ1次審査の段階では、「食べようぐ」を「個人向け」の提案として出していました。個人のデスクにハサミや鉛筆が置かれていて、それらの文房具と同じような感覚でおやつを手に取るようなイメージを応募シートの中心に据えました。
―― 審査員が1,300もの応募シートをすべて審査するため、ビジュアルのインパクトは大切かもしれません。にょっきのシートは「これはなんだろう?」と思わせる力がありました。その後、最終審査に向けてどのように提案をブラッシュアップしたのでしょうか。
三谷:お互いが感じていた不安要素について話し合いました。個人のデスクにおやつが置いてあるだけでは用具にはならない。本当に気分転換するためには、立ち上がってストレッチをしたり、歩くことが大事だったりします。であれば、廊下の壁におやつを貼りつけてそこまで取りに行くようにしたり、そこで誰かと立ち話をしてはどうか、と少しずつ「オフィス向け」の提案へと発展させていきました。
八幡:また、最終審査では使用シーンをわかりやすく見せることが大事だと考えました。デスクのシーンだけでは弱いので、ユーザーが立って歩いて、自ら積極的におやつを取りに行く場面をビジュアル化しました。
授賞式で、にょっきは最終審査のプレゼンテーションを再現した
柿木:当時、僕たちはまだ学生だったので働くシーンがわからなかったのですが、オフィスってどういう感じなんだろうと、ひたすら3人でイメージを描き続けました。
八幡:ハサミやテープと同じように、会社が備品としておやつを提供するようになればもっと気軽に摂れるようになるのではないか。たとえ会議の場にあってもおかしくない形やグラフィックを考えました。
伝えるために最善を尽くす
―― モデルの完成度も評価されました。どのようにつくったのでしょうか。
八幡:四角のパッケージは、透明のシートを切り貼りしてつくりました。丸と三角は、薄い塩ビシートを熱して柔らかくし、自作のバキューム装置で成型しました。穴をあけたタッパーウェアの上におやつと同じ形の石膏模型を置き、その上に塩ビシートを被せて、下から掃除機で吸引すると成型されるのです。
柿木:この方法は動画サイトで紹介されていたのですが、実際にやってみるととても難しい。僕はこれを試行錯誤しながら年を越しました(笑)。
成分のイメージを表現した形。グラフィックも控えめに、用具としてのたたずまいを重視した。
―― 最終審査では、試食もありました。
八幡:四角のバタークッキーはレシピを調べて、色々とつくってみて、色々とつくってみて、ひとくちサイズで求められる食べごたえや食感を検討しました。また、CGでお菓子のかたちをつくって体積を測り、市販のお菓子と食べ比べながら「ひとくち」のちょうどよいサイズを探りました。
―― 審査員からどんな声をかけられましたか。
三谷:川村真司さんからは、「プレゼンの順番、シーンの提示、動画、そして最後の試食まで、要素がしっかり揃い、一連のプログラムとしての完成度が高かった」と言っていただけました。
アワードを通じて、「どうしたら伝わるか」を学ぶことができました。
審査員たちは、「味の審査は初めて」と楽しそうに試食していた。
最後までテーマと向き合うこと
―― コクヨデザインアワードに参加した感想を教えてください。
八幡:コクヨデザインアワードは、コンセプト、テーマ、トロフィー、賞状、プロセスも含めて、アワード全体がデザインされています。参加してみてそれを実感でき、とても楽しかったです。
三谷:アワードに参加することで、気づかないうちに根本的なところまで考えを深められることがおもしろいです。そして、そうした応募者の考えをとてもよく汲み取ってくれるアワードだと思います。
―― 最後に、これから応募する人に向けてアドバイスをお願いします。
三谷:私たちが最初から最後までエネルギーを注いだことがあります。それは、自分たちの提案に対して「本当にこれはNEW STORYなのか」とジャッジし続けたということ。コクヨデザインアワードのテーマは問いが深いために、その意味を考えながら同時に答えを探す、というところがあって。「このアイデアは楽しい、ほしい」と思っても、本当にテーマに合っているか。そして何か引っかかりがある時、そこに真摯に向き合っていくと答えが見つかると思います。
柿木:僕たちはコクヨデザインアワードに4回挑戦しました。最初は振り返ることはなかったけれど、だんだん悔しくなってきて、受賞作を分析しながら自分たちに何が足りなかったかを考えるようになっていきました。
八幡:3回落ち続けて、それでも諦めずに頑張ってようやくグランプリをいただけました。誰にでも公平にチャンスはあるので、過去に落ちてしまった人も挑戦を続けてみてください。
―― グランプリ受賞、本当におめでとうございます!ありがとうございました。
にょっき(左から柿木大輔さん、三谷 悠さん、八幡佑希さん)の3人。大学時代学科が一緒だった仲間で応募。チーム名は、大学の友人同士ではまっていた「たけのこニョッキ」に由来する。「大人数でだれでもすぐ参加できるゲーム。そんな風に、シンプルなルールでわかりやすく楽しいものを、にょきにょき、のびのびと提案をしていきたい。」という思いから。