製品化された作品

Flow of Thoughts

〈2022 グランプリ〉

「Flow of Thoughts」は心を解きほぐすためのパーソナルな聖域です。
マキシマリストの世界のために作られたミニマリストジャーナル。
日々、不必要な落書きは捨て、思考の流れの中で重要なことを書き留めてください。
その目的はシンプルです。
頭の中の混乱を沈め、精神的な重荷を軽くし、意味ある瞬間を保存すること。
意図的にアイデアをまとめ、ミニマリスト思考の技術を習得しましょう。
「Flow of Thoughts」は単なる日記ではなく、明晰さへの道であり、成長への道なのです。

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作品紹介ムービー:
https://youtu.be/ARHWO07LQ0U?si=cRHVF36sw_X9FhY9(YouTube)

「Flow of Thoughts」はフランス出身のデザイナーEmilie-Marie GioanniさんとJoseph Chataignerさんによる新しいノートの提案です。コクヨデザインアワード2022のグランプリ受賞作品でした。

受賞は二人のその後にも大きな影響を与えました。カナダへの移住を決意し、独立したプロフェッショナルとしてキャリアをスタートさせたのです。現在、Josephさんは工業デザイナーとして、Emilieさんはコミュニケーションとブランディング戦略のプロとして活躍しています。

一方、製品化を担当したのは、コクヨ株式会社グローバルステーショナリー事業本部で企画・開発を担う馬目亮。コクヨデザインアワードの運営にも携わりながら、Flow of Thoughtsでは商品開発も担当しました。

プロダクトとしての価値が結実したデザイン

2020年に世界を襲ったパンデミック以降は特に、人はモノに対する意味を探しているように感じていたというEmilieさんが、産業的なデザインよりも人の感情に重きを置いたデザインをしたいというJosephさんとともに考えたのは、マインドフルネスにインスピレーションを受けた思考の整理・管理をするノート。

コクヨデザインアワード2022の書類審査段階では、真黒な紙の上に1本の白い道が走るようなデザインでした。真黒な紙面が、現在のように無数の落書きのような曲線に変わったのは、最終審査用の模型検討の段階でした。「日常生活のノイズ、つまり気を散らすネガティブな思考を認識しながらも支配できない空間を提供する必要があると考えたのです」とEmilieさん。

二次審査プレゼンテーションシート(左)と最終審査プレゼンテーションシート

二次審査プレゼンテーションシート(左)と最終審査プレゼンテーションシート

作品選考の段階から、Flow of Thoughtsの進化を見てきた馬目は、「インパクトのある変更でしたが、なるほどなぁと納得する変更でもあったので、受賞の期待を込めて審査を見守っていました」と当時を振り返ります。

「人々が日々の生活の課題と喜びの両方を受け入れ、より大きな自己認識と積極性を育むことができるものにしたい」という二人の思いと、その思いが見事に結実したデザインは、結果として審査員の高い評価を得て見事グランプリに輝きました。

Emilie-Marie GioanniさんとJoseph Chataignerさん

Emilie-Marie GioanniさんとJoseph Chataignerさん

細部までこだわって再現する

Flow of Thoughtsが製品化に向けて動き始めたのは2022年の後半。作品の完成度が非常に高かったため、今回の製品化をするにあたっての課題はただ一つ、「作品のデザインコンセプトを変えずにそのまま量産することだった」と馬目は言います。

エミリ&ジョセフによる最終審査用模型(左)と製品化されたノート

エミリ&ジョセフによる最終審査用模型(左)と製品化されたノート

コクヨはノート生産においては国内屈指の規模の工場を有していますが、ページごとに印刷内容が異なる点で通常のノートづくりとは大きく異なるため、今回の製品化は生産パートナー探しから始まりました。

採用した手法はデジタル印刷。印刷と製本のクオリティを担保できるパートナーを探し、協力を仰ぎました。

開発を担当した馬目亮

開発を担当した馬目亮

生産の道筋がついた後、馬目がこだわったのはディテールの部分。具体的には、ノートの綴じ部分や、ページめくりの際に白い線がずれないように調整することでした。「わずかに生じてしまうズレをミリ単位で調整するというのは、日本ならでは、あるいはコクヨならではの細かいこだわりかもしれませんが、このノートのデザインコンセプトに共感してもらい、製品として愛されるためには必要なことだと思い、粘り強く調整しました」。

ノートの綴じ部で白い線がずれることがないように調整

ノートの綴じ部で白い線がずれることがないように調整

自由な発想で楽しんで

製品化されたノートを見て、とても誇らしい気持ちになったというEmilieさん。「私たちが完全に独自に作成したプロジェクトが店頭に並ぶのは今回が初めてであり、これは私たちにとって非常に意味のあるマイルストーン」だと言います。

EmilieさんとJosephさんに、ノートを手に取るユーザーの方に向けてのメッセージを尋ねてみると次のような答えが返ってきました。

「Flow of Thoughtsは、周囲の雑音を認識しながら良いことに集中するよう促し、注意深く内省するためのツールです。これがあなたの日常生活に明晰さとポジティブさをもたらし、人生という旅の最良の部分を捉えるためのツールとなることを願っています」。

一方の馬目は、「とにかく心を無にして、一度ノートに向き合ってみてほしい」と言います。

「もともとはマインドフルネスやジャーナリングを主眼に練られたコンセプトですが、それ以外の使い方をしてはいけない、というものでもありません。この不思議なノートに向かい合うことでインスピレーションが湧いてくるかもしれません」。

「Flow of Thoughts(思考の流れ)」の名称が示す通り、使う人の思考を時間とともに記録するノートであると同時に、この製品自体が使う人の思考を刺激し、新しい創造の源泉になるかもしれない。受賞作品が製品として旅立つことで、使っていただく方の手によってさらなる価値が生まれ、広がることを願っています。