コクヨデザインアワード2021
最終審査レポート
変わる日常の中で、プロダクトの価値を見つめなおす機会に
2021年3月13日、コクヨデザインアワード2021の最終審査が行われ、グランプリ1点、優秀賞3点が決定しました。応募総数1,401点(国内795点、海外606点)の中から、グランプリに輝いたのは、フィンランドからの応募作「RAE」(Milla & Erlend)。新型コロナ感染拡大予防のため昨年と同様、最終審査と審査員によるトークショーはインターネットで同時配信されました。
プロダクトデザインのコンペとして原点回帰
18回目となるコクヨデザインアワード2021のテーマは「POST-NORMAL」。パンデミックを踏まえて人々の日常が大きくその姿を変えていく中、審査員たちは「現在の日常や身の回りを改めて見つめ、長く、広く、愛され続ける価値とは何かを考えてほしい」という期待を込めました。
また近年、コクヨデザインアワードのレベルが高まるにつれて、モノよりもコトのデザインをした作品が数多く寄せられるようになり、審査員たちから「一度この流れをリセットしてはどうか」という意見が出ました。そこで今回は改めて、アイデアやコンセプトだけではなく、形や素材を含めたプロダクトデザインのコンペティションとしての原点に立ち返ることになりました。
グランプリはフィンランドの作品
最終プレゼン審査では、事前に撮影されたファイナリスト10組によるプレゼン動画を上映した後、会場あるいはオンラインで質疑応答が行われました。その後別室で改めてプロトタイプを確認しながら、審議が行われ、受賞作品を決定しました。
グランプリを受賞した Milla & Erlend(Milla Eveliina Niskakoski, Erlend Storsul Opdahl)
グランプリは審議開始からわずか2分で決定しました。ここ数年でも異例の早さです。審査員全員が迷うことなく票を投じたのは、フィンランドからの応募作「RAE」(Milla & Erlend)。この作品は、世界中で多くの人が先の見えない状況に直面し、仕事や生活の環境が変わる時に、新しい環境でも使いやすいデスクトップオーガナイザー(物入れ)として提案されました。引っ越しに使うダンボールに着想を得て、折り紙のように1枚の平面から立体の容器を作ることができます。
作者である Milla & Erlend のふたりによると、「最初は底面をテープや糊で留める仕様だったが、紙だけで組み立てられるように改良を重ねた」とのこと。最終審査のプロトタイプでは、底部が箱状の構造となり、しっかりとした安定感と強度を実現していました。
審査員全員から、「できあがったフォルムが美しい」(植原 亮輔さん)、「素材も流通面でもサスティナブル」(川村 真司さん)、「アイデア、可能性、クオリティがとても高い」(田根 剛さん)、「紙という素材の価値を高めている」(柳原 照弘さん)、「あらゆる面でしっかりして、色々なものに展開していけそう」(渡邉 良重さん)と絶賛の声が寄せられました。
プロダクトとして評価された優秀賞
続いて優秀賞は、「質感認識する鉛筆」(Soh YunPing さん)、「コドモノギス」(山浦 晃司さん)、「学びに寄り添うマイボトル」(松浦 泰明さん)の3点に決定しました。
マレーシア出身で日本の美術大学でインダストリアルデザインを学ぶ Soh YunPing さんが提案した「質感認識する鉛筆」は、芯の硬さや色の濃さを鉛筆軸の色や形に反映することで、鉛筆の使い心地を感覚的に楽しむもの。コクヨデザインアワードで鉛筆の提案は多いが、「これは芯の硬さ、濃さ、握り方の3つを掛け合わせているところがユニーク」と黒田社長。また「グランプリの次にこれを評価した」という田根さんは、「コンセプチュアルで、これまでの鉛筆に対する認識を変えてくれる作品だと思う」と印象を話しました。
「コドモノギス」は、厚さや経を測る測定器(ノギス)の機能を分解して、子ども向けに4つのツールにしたものです。玩具のようなおもしろいフォルムとカラフルなグラフィックで審査員の注目を集めました。「測るという行為を楽しくし、学ぶ意欲をかき立てるというコンセプトに真実味があった」(渡邉さん)。「機能を追求するのとは異なるベクトルでプロダクトを完成させた点を評価したい」(柳原さん)。サンフランシスコを拠点に活動する山浦さんはオンラインで「今回はプロダクトデザインの部分に力を入れたので、そこが評価されて嬉しい」と喜びを語りました。
「学びに寄り添うマイボトル」は、感染症対策からマイボトルを使う人が増える中で、勉強机やワークデスクになじむような「文房具としての水筒」としてリデザインした提案です。「断面を円から三角形にするだけで転がりにくくなる、というミニマルなデザインが実現できている」と川村さん。また、そのまま商品化できそうな、プロトタイプの完成度の高さも好評で、植原さんは「普段気づかないところまで細かくデザインしていることが分かり、そのリアリティを評価したい」と話しました。
オーディエンス賞はサプライズも
受賞は逃したものの、審査員をおおいに悩ませた作品(の一つ)が、「パッケージなペン、ペンなパッケージ」(長谷川 泰斗さん)。ゴミを削減するために再生素材のパッケージと一体化したペンの提案です。販売方法についても考え、新品を陳列するレールと使用済みを回収するレールを組み合わせた什器のアイデアは審査員をうならせました。
また「NURIKAMI - 塗紙 -」(NEW+YOSHIOKA)は塗料の提案。身の回りのモノに塗ると、紙粘土の表面のような毛羽立ちのあるテクスチャーを付加することができます。紙を塗料にするという発想は斬新だと、審査員の注目を集めました。
視聴者からのオンライン投票によるオーディエンス賞には、ポーランドからの応募作「Ghost Beans」(Yuliia Polozova さん)が選ばれました。この結果がアナウンスされた時、審査員たちからどよめきが起きました。というのも最終プレゼンでは「1次審査の資料と最終プロトタイプのギャップが大きい」「コンセプチュアルではあるが商品化するデザインとしてはどうか」といった評価だったからです。審査員とオーディエンスの評価が異なったことについて、柳原さんは「日本のプロダクトデザインではあまり目にしないものだが、オーディエンスにとっては純粋にこういうものを見てみたい、というデザインに対する欲求や期待があるのかもしれない」と話しました。
困難な時でも挑戦し続けることが大事
審査発表と授賞式の後には、木田隆子さん(雑誌「エル・デコ」ブランドディレクター)をナビゲーターに迎えて、審査員によるトークショーが行われました。冒頭で今回のテーマ「POST-NORMAL」について、実は何度も議論をやり直した末にようやく決まったことが明かされました。その上で応募作品について振り返り、「リアリティのあるプロダクトのアイデアがたくさんあって手応えもあり、これまでで最も納得のいく結果だった」(植原さん)、「提案がソーシャルディスタンスにまつわる提案に偏るのではと心配したが、デザインの強さを持った作品が集まってよかった」(川村さん)、「出来事という問いに対してモノで回答するデザインコンペとなり、意義深く、審査も楽しかった」(田根さん)、「応募者それぞれが考えていることをうまく形にして、とても発展的なコンペになった」(柳原さん)「粒ぞろいのプロダクトが集まり、どれもハッとするような視点に驚かされた」(渡邉さん)と感想を語り合いました。
最後にコクヨの黒田が次のように語り、コクヨデザインアワード2021を締めくくりました。「コクヨデザインアワードの目的は、真剣に課題に取り組む機会を提供することなので、常にテーマは難しく設定している。今回のテーマも大変だったと思うが、リアリティのある力強い作品が集まり、先行きが不透明で困難な時でもチャレンジし続けることが大事だと勇気づけられた。コクヨとして長期ビジョン「be Unique.」を掲げ、創造性を刺激し続ける会社になることを宣言したばかり。今後のアワードもより多くの人に参加してもらえるよう盛り上げていきたい」。